アラビア村の泉(いずみ)のそばにある大きな木の下で、今日もハキムおじいさんは子どもたちを待っています。 色づいた木の枝(えだ)が風を受け、まるでないしょ話をしているように、サワサワとうれしげな音を立てています。ハキムおじいさんがそれに耳をかたむけていると、今日も子どもたちが元気良くかけてきました。
ジャミール国王は知恵(ちえ)と正義(せいぎ)によって国を治めました。そのため、国民はみなかれをしたい、国はかれの時代になってからよりいっそう栄えました。かれの城(しろ)には国の各地から、首長や芸術家(げいじゅつか)や学者たちが集まりました。 またこの大国の豊(ゆた)かな暮(く)らしを求めて、近隣(きんりん)の国々からも、すぐれた職人(しょくにん)や音楽家、医者、技術者(ぎじゅつしゃ)たちがおおぜいやって来るようになりました。 ジャミール国王は、国の利益(りえき)とさらなるはん栄のために一生懸命(けんめい)努力しました。 かれは国の成功をほこりに思っていましたし、人々もまた自分たちの国王のゆうしゅうさをほこりに思いました。しかし、中にはこのように言う心無い者たちもいたのです。 「ゆうしゅうなのは国王じゃなくて、幸運をもたらすという王妃(おうひ)の長い髪(かみ)の方さ。」 ある日、ジャミール国王が亡(な)き父の妻(つま)に会うと、かの女はこう言いました。 「王妃の髪のことを人がなんと言っているか、知らないのですか?」 そこで、かれはほほえんでかの女にこのように答えました。 「知っていますよ。しかし人々はみなわかっています。この国のはん栄の理由は、知恵と、懸命(けんめい)に働くことだ、とね。」 しかし、かの女はいどむようにこう言いました。 「じゃあ、それを証明(しょうめい)してみせてごらんなさい。」 すると、ジャミール国王はおこって思わずこう言ったのです。 「それでは、王妃に髪を切るように言いましょう。それであなたは満足なさるのですね?!」 それでジャミール国王は、ライラに髪を切るようにたのみました。しかし、意外にもライラは夫にこのように言ったのでした。 「あなたはご存(ぞん)じですね、わたしがあなたのたのみを断(ことわ)りはしないことを。でも、どうかわたしに髪を切れとだけはおっしゃらないで下さい。」 それから数日後のある日、ジャミール国王は大臣たちと集まっていたのですが、やがて近年の国のはん栄に話がおよびました。 しかしその中に、国王のおばのいんぼうによって送りこまれた男が同席しており、とつぜん国王に向かってこのように言い放ったのです。 「アッラーが国王陛下(へいか)をこの世に永(なが)らえられますように。そして王妃の髪(かみ)もまた長らえられますように!」 それを聞いたジャミール国王はひどくおこり、その男を追い出しました。しかしそれと同時に、心の中ではこのようにもつぶやいていたのです。 「やはり、このような言葉にもう決着をつけなくてはならない。」 それから国王はハサミを手に取り、妻(つま)の部屋へと向かいました。しかし妻がねむっていたので、その間にかれは急いでかの女の髪を切ってしまいました。するととつぜん、部屋中がいなずまのように強れつに光ったのです。 そこに家臣の1人が飛びこんできて、きょうふにかられながらこのようにさけびました。 「国王陛下! 敵(てき)が町をしゅうげきしています!」 それを聞いた国王はすぐに剣(けん)とたてを取り、急いで兵士を集めて、かれらとともに町の城壁(じょうへき)へと飛び出しました。しかし敵の兵士たちはすでに城壁をよじ登り始めていました。 ジャミール国王と兵士たちは激(はげ)しく応戦(おうせん)し、次々とやって来る敵のこうげきをなんとか食い止めようとしましたが、谷上のすべてのおかがもう敵の兵士たちですでにうめつくされていたのです。 ジャミール国王の兵士たちは、激しい戦いで次々とたおれていき、その数時間後には、もうほんのわずかな兵しか残っていませんでした。 その時、とつぜん町の城門(じょうもん)がくずれ落ち、敵の兵士たちがなだれこんできました。残ったわずかな兵士たちは勇かんに戦いましたが、みな殺されてしまいました。 そして残された国王はただ1人で懸命(けんめい)に敵(てき)に立ち向かいましたが、間もなく背中(せなか)を切られ、血の海と化した地面にたおれてしまったのです。 町の住人たちは、兵士たちが殺されて国王がたおれてしまったのを見ると、みなおそれて山へとにげていきました。 それから敵(てき)の兵士たちは城(しろ)へととつ入しました。かれらは城(しろ)の中の金銀財宝(ざいほう)や高価(こうか)な品物をつかんでみな服の中におしこみ、ごうかなじゅうたんや美術品(びじゅつひん)を運び出しました。 そしてかれらの指揮官(しきかん)は兵士たちに王妃(おうひ)を探すよう命じました。 やがてかれらは城の一室にかくれていた王妃を見つけ出しました。かの女はきょうふと不安でもう死にそうになっていました。すると指揮官はかの女にこう告げたのです。 「あなたはもうとらわれの身。わたしたちといっしょに来るのです。」 兵士たちはライラの手足になわをかけ、海岸へと連れて行きました。かれらがきしゅうのために乗りつけた船団(せんだん)が海岸に停はくしていたからです。 敵国の王は、兵士たちが勝利を収(おさ)め、金銀財宝や高価な品々をたずさえてもどってきたのを見て大喜びし、指揮官(しきかん)に、「王妃(おうひ)はどこだ?」とききました。 そこで指揮官が、「陛下(へいか)、わたしたちはかの女をとらえて参りました。」と答えると、国王はこう言いました。 「すぐに連れて来い! 幸運を呼(よ)びよせるというかの女の髪(かみ)を早く見てみたいのだ。」 しかし、ライラの長い髪がみな切られてしまっているのを見ると、かれはたいそういかり、かの女に向かって、「なぜ、髪を切ったのだ?!」とさけびました。 そこでライラはあまりのおそろしさになみだを流しながら、このように言ったのです。 「陛下どの、どうかおじひを! わたし自身、本当にわからないのです。どうして髪がなくなっているのか。」 すると国王は大声でこのように命じました。 「とうの中にかの女を閉(と)じこめろ。髪がのびるまで、かの女をとうから出してはならない!」
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