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老人が言ったとおり、やがて海岸の見張(は)り番の妻(つま)は女の子を産みました。それで夫と相談して、その子をライラと名づけました。
ライラはすくすくと育ち、やがてかんしとうの階段(かいだん)を元気に登り降(お)りするようになりました。そして海辺でたわむれ、またとうのそばの森へ行って木々の間をかけぬけたりするようになりました。
ライラはいつでも楽しそうに笑い、その顔から笑(え)みが消えることはありませんでした。そしてかの女の髪(かみ)は日に日にのび、また日に日に美しくかがやいていきました。
やがて年月が過(す)ぎ、ライラはおだやかな暮(く)らしの中で、かわいい少女からきれいなむすめへ、そして目を見張(は)るほど美しい女性へと成長していったのです。
そのころ、あのジャミール王子も日に日にたくましい若者(わかもの)に成長していました。
国王はすぐれた師(し)を王子のために選び、王子はかれらからアッラーの教えや知恵(ちえ)を学びました。また、乗馬や戦術(せんじゅつ)、弓矢や剣(けん)の道にひいでた者たちも国の各地から呼(よ)び集められ、王子にそのわざを教えました。
ジャミール王子のお気に入りのしゅ味は狩(か)りでした。かれはよく馬に乗り、海辺にある父の城(じょう)さい近くの山へ出かけ、そこでタカを放して、野ウサギや鳥やそのほかのえものをとらえるのです。
ある日、ジャミール王子はいつものように狩りに出かけました。王子のタカはその日もにげ足の速い鳥をめがけて飛び立っていき、王子は馬でタカを追いかけて森へ入っていきました。
それから必死で川をわたり、坂道をかけ下り、谷をわたりました。そして王子は海辺に面した小高いおかで足を止め、そこで少し休もうと思いました。
しかしその時王子はすでに道に迷(まよ)っており、父の城(しろ)から遠くはなれた場所に来てしまっていたのです。
そのうちだんだんと暗くなってきましたが、あたりにははるか岸ぺきの上にそびえ立つかんしとうしか見当たりません。それで、王子はそのかんしとうの方へと向かっていきました。

かんしとうへ向かうと中、王子はライラに出会いました。そしてまたたく間にそのまぶしい美しさに目をうばわれたのです。そこでかの女にあいさつをして、「あなたはどなたですか?」とたずねました。
するとライラはこう言いました。
「わたしはライラと言います。かんしとうの見張(は)り番のむすめです。あなたはどなたですか?」
それで王子はこのように答えました。
「わたしはジャミール王子で、国王のむすこです。」
それを聞いてライラはおどろきましたが、すぐにこのように言いました。
「わたしは今まで王子様に出会ったことはありませんが、たとえあなたがそう言わなかったとしても、わたしはあなたが王子様ではないかと思ったことでしょう。」
すると王子は、確(たし)かな口調でライラにこう言ったのでした。
「あなたこそ……。あなたが自分は見張(は)り番のむすめだと言わなかったなら、わたしはあなたを王女様だと思ったにちがいない!」
翌日(よくじつ)、ジャミール王子は城(しろ)へもどりましたが、いつもとちがってだまりこみ、1人になりたがっている様子でした。国王はそれに気づき、「むすこよ、なにがあったのだ?」と声をかけました。
すると王子はこう言いました。
「父上、わたしは自分の花嫁(はなよめ)を見つけたのです。」
そこで国王が、「むすこよ、その花嫁はいったいだれなのだ?」とたずねると、王子はこのように言ったのです。
「ある兵士のむすめです、父上。海辺にあるかんしとうの見張り番のむすめなのです。かの女は本当にこの世で一番美しいむすめです。」
そして、王子は愛するむすめのことを国王にいろいろと話して聞かせました。
国王は、かつて自分が追い出した召使(めしつか)いのむすめが、海岸にあるかんしとうの見張(は)り番と結婚(けっこん)したことを伝え聞いていました。そのため、むすこが話しているのは、あの召使いの女性がさずかったむすめにちがいない、とすぐに気づいたのです。
そこで国王は王子にこう言いました。
「だが、事を急がず、まずはきさきにこの事を相談しなければなるまい。」
しかし、おきさきは王子があの召使いの女のむすめと結婚したがっていることを知るとカンカンになっておこり、こうさけびました。
「そんなこと、許(ゆる)しません! あの召使い女のむすめと結婚したいですって?! あのまじょのむすめと! わたしは絶対(ぜったい)に許さないわ!」
国王はおきさきを何度も説得しようとしましたが、おきさきはまったく聞き入れようしないばかりか、あろうことか、ある日このようにさけんだのです。
「あの召使い女はわたしたちにとってのわざわい、そしてそのむすめも同じこと。わたしたちはわざわいと戦って不吉(ふきつ)なる者たちをたおさなければ!」
それを聞いた国王は、ライラの命が危(あぶ)ないと思いました。そこでかの女とその家族に手紙を書き、それを家臣にわたして、今すぐ海辺のかんしとうへ向かうように命じました。
そして使いの者が夜明け前にその手紙を持って、ひそかに町を出て行きました。
やがてライラの両親は国王の手紙を受け取りました。その手紙には、かんしとうの高い場所にある部屋にむすめをかくすように、そしてむすめをその部屋から決して出してはいけない、と書いてありました。
ライラの母は、この手紙は一体どういうことなのだろうか、とおどろきましたが、ライラの父はこう言いました。
「わたしにもわからないが、とにかくわたしたちは国王陛下(へいか)のご命令に従(したが)わなければ。」
こうして、ライラはとうの高いところにある部屋に身をかくし、門ぴにはカギがかけられました。その日から、ライラは一歩も外に出られず、まただれにも会うことができないままその部屋の中で過(す)ごし、やがて数週間がたちました。
かの女はだれにも会えないその長い時間を編(あ)み物やぬい物で気をまぎらわし、時折海をながめてはなみだをうかべました。
しかしそんなある夜、窓(まど)の下からこんな歌が聞こえてきたのです。
― わたしは小鳥 だから飛べるさ どんな場所でも 好きなところへ
だけど心は 粉々のまま だってあのこは まだカゴの中 ―
ライラは声の主がだれだかすぐにわかり、飛びつくように窓辺へかけよりました。
そしてこうさけんだのです。
「ジャミール王子、なぜここにいるのですか?」
すると王子は声をひそめてこう言いました。
「大きな声を出してはいけない! そっと降(お)りてきなさい。わたしがなにもかもわけを話してあげるから。」
しかしライラはこう言いました。
「この部屋をはなれることはできません。だって王様のご命令なんですもの!」
そこで王子はこう言ったのです。
「じゃあ、カギをここまで下ろしなさい。わたしが登っていくから。」
そこでライラは、とうの門ぴのカギと部屋のカギを自分の長い髪(かみ)の毛に結びつけ、窓から下にたらしました。ジャミール王子はその長くて美しい髪を見ておどろきましたが、おかげで2人は部屋で会うことができたのです。

ライラは王子の話を聞き、国王がこんな高い場所にかくれるよう命じたわけをはじめて知りました。そして2人は結婚(けっこん)の約束をし、王子はやがて、来た時と同じようにあたりを警(けい)かいしながら帰っていきました。
その年に国王は病にたおれ、間もなく亡(な)くなってしまいました。人々はみな国王の死を悲しみました。そしてジャミール王子は父のあとをついで国王になりました。
それからしばらくすると、若(わか)い国王はライラを呼(よ)びよせ、ついに国民にかの女との結婚を宣言(せんげん)したのでした。
新しい国王の結婚の祝えんは一ヶ月も続きました。うたげでは、さまざまな祭りや出し物や遊ぎがもよおされました。外国の使節団(だん)も次々にお祝いにかけつけ、高価(こうか)な品々をおくりました。
人々はみな、やさしくて美しい花嫁(はなよめ)を心から愛しました。亡くなった前国王の妻(つま)を除(のぞ)いては。かの女は花嫁をにくみ続け、かの女が死んでしまえばいい、とまで思っていたのです!
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