アラビア村の泉(いずみ)のほとりにある大きな木は、いつでも小鳥や小動物や虫たちのいこいの場です。あるものはそこで羽を休め、あるものはそこに巣を作って暮(く)らし、あるものはその樹液(じゅえき)をおいしそうにすすります。 夏の間、おいしげった枝(えだ)をのばし、わたしたちにすずしい木かげをあたえてくれた木々もすっかり秋のよそおいに変わりました。その木の下でこしを下ろしているハキムおじいさんのもとに、今日も子どもたちが集まってきました。
昔々、アラビアのある国に立派(りっぱ)な国王がいました。その国王はとりでで固く守られた山上の城(しろ)の中で、家族や家臣たちといっしょに暮(く)らしていました。 国王にはジャミールという名の、かしこくてりりしい顔をした少年の王子がいました。 ジャミールの母はかれがまだ幼(おさな)いころにもう亡(な)くなっており、国王は新しい妻(つま)をむかえましたが、この新しいおきさきはジャミールをまったくかわいがらないで、じゃけんにあつかってばかりいます。 そこで、かしこくてきれいなあるむすめが、召使(めしつか)いとして王子の世話をするようになりました。王子はやさしくて正直なこの召使いのむすめが大好きでした。 それを見て、心のせまいおきさきは美しいそのむすめに激(はげ)しくしっとし、かの女をひどくきらうようになりました。そして国王にこのように不平をうったえるようになったのです。 「あのむすめには子どもの面どうをうまく見ることなどできません。あれはまほう使いで、まものの子です! あのむすめはわたしたちにわざわいをもたらすのです!」 国王は妻(つま)の言葉にうなずけず、このように答えました。 「あのむすめはやさしくて正直者だ。かの女を追い出すことなどわたしにはできない。」 しかし、おきさきはそれからもそのむすめについて毎日のように苦情(くじょう)を言うので、そのたびに国王はこのようにおきさきに言わなければなりませんでした。 「きみはまちがっている。きみの不平はわたしたちを不孝(ふこう)にするだけなのだ。」 それでもおきさきがしつこく国王にせまるので、ついに国王はいら立ち、こうさけんでしまったのです。 「よし、わかった! あのむすめを宮殿(きゅうでん)から追い出すがいい! これでもうわたしをわずらわせないでくれ!」 こうして王子の世話係のむすめは、山上の王の城(しろ)を出て、海岸の近くで暮(く)らし始めました。そしてそれから間もなく、むすめはそこで1人の若者(わかもの)に出会ったのです。 その若者は、人里はなれた海辺のかんしとうで見張(は)りをしている兵士でした。 やがて2人はひかれあって結婚(けっこん)し、ゆう福な生活ではありませんでしたが、おだやかで静かなその土地で幸せに暮らしました。 そんなある日、2人が暮らす土地に、ある旅の老人がやって来ました。その老人は真っ白で長いあごひげを生やし、なにか光を放つような、それでいてとてもやさしい目をしていました。 その老人は未来のことを見通す力を持っているのだと、人々はうわさしました。
ある日、見張(は)り番の妻(つま)となったむすめはその老人の姿(すがた)を見かけ、なにか手助けをしてあげたいと思い、食べ物と水を持って行きました。すると老人はかの女に感謝(かんしゃ)し、このように言ったのです。 「ご婦人(ふじん)よ、あなたは大変親切なお人です。あなたのご親切には、いずれアッラーがかがやかしい未来でむくいてくださるでしょう。」 かの女はその言葉にふと興味(きょうみ)を持ち、「それがどういう意味か、わたしに教えてくださいませんか?」とたずねてみました。 すると、老人はこのように言ったのです。 「もうすぐアッラーはあなたのように大変美しい女の子を、あなたにおさずけになるでしょう。そしてその子は、とても長くて輝く髪(かみ)をしたむすめになり、その髪はあなたがたすべてに幸運をもたらすのです。ですから、あなた方は決してかの女の髪を切ってはなりません。」
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