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アラビアもよう
アラブのどうわ


 ■アラブのどうわ 第62回 「父のゆいごん その2」

その2

 そんなある日、三男のシャリーフは心の中でつぶやきました。
「父上はわたしに、誠実(せいじつ)で信らいの置ける人を見きわめるようにおっしゃった。だからそれがだれなのか試(ため)してみよう。」

父のゆいごん その2   シャリーフは一頭の羊をほふり、テントの中に置いて布(ぬの)でおおってから、自分が信らいしている友人を呼(よ)んでこう言いました。

「わたしは今まで君との約束を破(やぶ)ったこともないし、友人として心から君を助けてきたね。」

 それを聞くと友人は、「その通りだ、シャリーフよ。君の身に何かあったのかね?」とたずねます。

 そこでシャリーフは別の友人の名を借りてこう言いました。
「実は〇〇を殺してしまったのだ。かれの死体は今あのテントの中にある。だからあれをどこかにかくさなければならない。それを君に手伝ってほしいのだよ。」

 それを聞くと友人はとまどい、「君はなんてことをしてしまったのだ。ぼくにはそんな手伝いはできないよ。」と言うと、かれを置いて出て行きました。

 シャリーフは次の友人に同じことを試みましたが、かれも先の友人と同じように、手伝いをこばみ、シャリーフを置いて出て行きました。

 それからもシャリーフはたくさんの友人に同じように試みましたが、やはりみな同じでした。

 そこでシャリーフは父が信らいしていたある人のことを思い出したので、「そうだ。わたしの友人と同じように、父上の友人をためしてみよう。」とつぶやき、父の友人の一人を呼(よ)んでみることにしたのです。

 父の友人が入ってくると、「わたしにはあなたに話したい秘密(ひみつ)があるのです。」とシャリーフは切り出しました。

 すると父の友人は、「いったい何かね?」とたずねました。

 そこでシャリーフはこう言いました。
「実は〇〇を殺してしまったのです。死体はあのテントの中に布で包んで置いてあります。」

 それを聞くと、父の友人は落ち着いたままこうききました。
「それでどうしたいのだね?」

 シャリーフが、「死体をかくすのを手伝っていただきたいのです。」と言うと、かれは少しの間だまって考えていましたが、やがて、「このことをだれかわたしのほかに知っている者がいるのか?」とたずねました。

 そこでシャリーフはこう答えました。
「わたしが誠実(せいじつ)な友として信らいしていた男3人に、このことを知らせました。しかしかれらはわたしのたのみを聞いてはくれず、出て行ってしまったのです。」

 すると父の友人はこう言いました。
「気をつけて行動しなければいけない。あとで死体はわたし一人でかくして、それから君のところへもう一度もどってくることにしよう。わたしがすべて一人で責任(せきにん)を持つからだいじょうぶだ。」

 やがて日が暮(く)れてやみよになると、父の友人は大きな布(ぬの)の包みをかついで家へ帰りました。

 それからしばらくすると、とつぜんだれかがとびらを乱暴(らんぼう)にたたく音が聞こえました。そしてそれに続いて、「けいりだ、ここを開けろ。」という声が聞こえました。

 シャリーフがとびらを開けると、たくさんのけいりたちがかれに向かってきて両うでをつかみ、それから家中をめちゃくちゃに引っかき回しました。

 うでをとられたシャリーフが後ろをふり返ると、けいり長のそばには先の3人の友人がいっしょに立っています。それでシャリーフは、かれらが告げ口をしたのだと知ったのです。それからけいりたちはシャリーフをろうへ連行しました。

父のゆいごん その2 ろうでは、けいり長がかれをじん問しました。そこでシャリーフはこう話しました。
「わたしはだれも殺してなどいません。〇〇はちゃんと生きていて、店で働いていますよ。わたしは友人たちをためしてみただけなのです。そうしたらそれをかれらが告げ口したのですよ。」

 それを聞いたけいり長は、シャリーフの話が本当かどうか確(たし)かめるために、かれの話した友人の店へ部下たちをやりました。するとやがて部下たちは、その男が本当に生きているのを確認(かくにん)してもどってきたのです。

 こうしてシャリーフが言っていることは本当だとわかり、かれは無事解放(かいほう)されました。

 ろうを出ると、シャリーフは、さっそく自分をかばってくれた父の友人のうちへと向かいました。かれがとびらをたたくと、父の友人が出てきました。かれはシャリーフを見て、「けいりに追われたのかい?」とかれを心配して言いました。

 そこでシャリーフは、「いいえ、断(だん)じて! あなたといっしょに肥(こ)えた羊を食べようと思ってきたのですよ。」と言ってかれをおどろかせました。

 びっくりして父の友人が、「どういう意味かね?!」ときくと、シャリーフはこう言って今までのことを話したのです。

「実は、だれが本当は信らいのおける人なのか、わたしはためしてみたかったのです。
父上がわたしにのこしてくれた言葉どおりに。布(ぬの)に包んでテントに置いてあったのはほふった羊です。死人ではないのですよ。」

 それを知って、父の友人は腹(はら)をかかえて笑いました。それからかれの家族といっしょに、二人は肥(こ)えた羊を食べて楽しい夜を過(す)ごしました。翌朝(よくあさ)になると、シャリーフは幸せな気持ちで家へ帰ったのです。

つづく


【ハキムのひとこと】

ハキム

 老人の一番下の息子(むすこ)、シャリーフは、父ののこした言葉を大切にし、その言葉どおりに、自分まわりで本当に信らいできる人がだれなのかを、まず知ろうと思ったのでした。そしてそれまで、信らいできると思っていた親しい友人たちは、いざとなると、かれのためにどうすればいいのか、いっしょに考えてあげようとはせず、ただにげ出してしまっただけでした。亡くなった老人は、本当に信らいできる人を知り、その上でかしこく行動することの大切さを、気の優しいシャリーフに教えようと思ったのですね。

 さて、ほかの2人の息子たち、マスルールとシュジャーゥは、あれからどうしているのでしょうか??

 

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