その4
翌朝(よくあさ)早く、けいり長が朝の礼拝(れいはい)をささげていると、そこへ国王の使いの者たちがやって来て、「昨日の男を連れて国王のもとへ来るように。」と言いました。
けいり長は心の中でこういのりながら、国王のもとへと向かいました。
「主よ、あなたは人が誠実(せいじつ)であることをめでられます。ですからわたしの行いにお力をお貸(か)しくださり、どうかわたしをお助けください。」
けいり長がとう着すると、国王はかれを待ってすわっていました。そして昨日の男がいないのを見ると、「あの男はどこだ?」とききました。しかしけいり長はだまったまま答えません。
国王が今度は声を高めて、「お前にわざわいあれ! 男はどこだ?!」ときくと、けいり長は落ち着いて、「国王様、神があなたを永(なが)らえさせられ、その王権(おうけん)が末永くありますように……。」と話し始めました。
しかし国王はかれの言葉をさえぎり、激(はげ)しくおこって言いました。
「もし男がにげたと言うのなら、お前の首を打つまでのことだ!」
そこでけいり長は、こう答えました。「いいえ、陛下(へいか)どの。かれはにげたのではありません。どうかわたしとかれの話をお聞きください。それから陛下のお好きなように、わたしをお裁(さば)きください。」すると国王は、「では、話してみよ。」と言いました。
それからけいり長は、自分と男との間に起きたことを最初から最後まですべて話し終わり、そしてこう言いました。
「ですから、陛下(へいか)どののおじひとおんしゃがいただければ、わたしはあの男にむくいたことになるのですし、またそうではなく、陛下どのがわたしをお手打ちになされたとしても、少なくともわたしは自分の良心を満足させられるのです。わたしにはその両方のかくごができています、陛下どの。これがわたしの話のすべてでございます。」
それを聞いて今度は国王の方がだまってしまい、けいり長はまるで火の上にいるような気持ちで答えを待ちました。そしてしばらくすると国王はやっと口を開き、こう言いました。
「お前にわざわいあれ。あの男は、お前がだれだか知りもしないのにそれだけのことをしてくれたのだ。それなのにお前は、かれがだれなのか知っているくせに、こんなふうにしかむくいられないというのか?
どうしてもっと前にかれとのことを話さなかったのだ。そうすればお前に代わって我々(われわれ)がじゅうぶんに良くかれにむくいたであろうに。」
そこでけいり長が、「いいえ、陛下(へいか)どの、かれはまだ町におります。わたしの無事を確(たし)かめない限(かぎ)り、自分はけっして町から出て行かないとかれは言い張(は)ったのです。そして必要ならばすぐここにかけつけると言っています。」と告げました。
すると国王は感心してこう言いました。
「それはお前を以前助けたことよりも、さらに立派(りっぱ)なこういである。すぐにかれのもとへ行って良くしてやり、安心させてわたしのもとに連れてきなさい。お前に代わってわたしがかれをむくいてやろうではないか。」
けいり長は信じられない思いで城(しろ)を飛び出し、馬に乗って男がいる場所へと急ぎました。そしてかれの顔を見ると喜んでこう言いました。
「国王陛下(へいか)があなたをおゆるしになりました!」
男はそれを聞くと、「神に感謝(かんしゃ)をささげます。喜びに際(さい)しても悲しみに際しても、感謝されるべき主よ。」と静かにつぶやきました。そして二人は馬に乗り、国王の城(しろ)へと向かいました。
城に着くと、国王は自分から男に近付き、かれを自分のそばにすわらせました。
そして親しく話しかけ、食事が運ばれるとかれといっしょに食べました。それから男に美しい衣しょうを着せ、ふるさとでの立派(りっぱ)な仕事を申しわたしました。そしてもちろんかれの罪(つみ)をゆるし、これからも連らくを取るように言いました。
さらに国王は、かれの町の官り長にあてて書状(しょじょう)をしたため、その中でかれをこうぐうするように命じたのでした。
男はそれから数日間、国王とけいり長の両方からすばらしいもてなしを受けました。そして人々の尊敬(そんけい)を一身に受け、やがてふるさとへと帰って行きました。
かれの持つとうとい徳(とく)や神への変わらぬ誠実(せいじつ)さが人々を動かし、良い結末をもたらしたのでした。
おわり
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