その3
けいり長の話を聞き終わると、男はこう言いました。
「神はすでに、その恩(おん)返しのきかいをあなたにおあたえになりました。」
そこでわたしが、「どういうことですか?」とたずねるとかれはこう言いました。
「その男はわたしです。わたしはあれから数々の災難(さいなん)に見まわれました。それに重い鉄のくさりでつながれて、首都への道中、ほんのわずかな水と食りょうしかあたえられなかったせいもあって、すっかり姿(すがた)が変わり果ててしまい、あなたはわたしに気付かなかったのですよ。」
それを聞くとけいり長はあわてて男にかけ寄(よ)り、その顔を近くで見つめました。
そしてよく見ると、それは確(たし)かに自分を救ってくれた人の顔にちがいありませんでした。けいり長はあまりのうれしさに思わずかれの頭にせっぷんし、それから、「しかしいったいあなたの身に何があったのですか?」とたずねました。
そこで男は次のように話し始めました。
「かつてのあなたのころのように、町に反乱(はんらん)の風がふきあれ、わたしもそれにかかわりました。国王は町に軍をはけんして反乱を収(おさ)め、わたしはとらえられて、ひん死の状態(じょうたい)になるまでむち打たれました。
それからこうして国王のもとへ送られてきたのです。わたしの容疑(ようぎ)は国王のもとで大変重く、もう死刑(しけい)になるしかないのです。
ところで、わたしは家から無理やり連行されたので、親せきの者への借金のことを家の者に伝えるのを忘(わす)れ、そのままにしてきてしまいました。
ですからあなたがわたしにむくいてくれる気持ちがおありになるなら、そのことをわたしの家族に伝えるのに、だれか人を送ってください。そうしてくだされば、あなたは恩(おん)返し以上のことをわたしにしてくださることになります。」男はそう言って、家族の住所を告げました。
けいり長はそれを聞いてとてもおどろき、心の中でこう言いました。
「何という人だろうか?! 恩返しとして、命ごいをしようとは全く考えないなんて。」
けいり長はかれを見て、「神があなたに良くしてくださいますように。」と言ってから部下のけいりを呼び、馬を用意して、おくり物の荷を積むように命じました。そして部下を退(しりぞ)かせてから男にお金をわたし、すぐににげるように言いました。
しかし男はそれに応(おう)じず、「国王に対するわたしの罪(つみ)は重いのです。にげてもすぐに国王は人をやってわたしを連れもどし、いずれにせよわたしは殺されるのです。」と言います。
そこでけいり長は、「いいからまず自分の命を救いなさい。そして後の問題はわたしに任(まか)せてください。」と言いました。
それでもかれは、「神にちかって、わたしを助けたためにあなたがどうなるのか見届(みとど)けない限(かぎ)り、わたしは町を去ることはできません。必要ならばいつでもあなたのもとへかけつけられるように。」と言って聞きません。
ですからけいり長はこう言いました。
「それなら、〇〇に行ってそこに待ちなさい。明日わたしの無事が確証(かくしょう)されれば、あなたに必ず知らせに行きます。そしてもし仮(かり)にわたしが殺されても、それでわたしは、自分の身をていしてあなたを救うことができるのです。かつてあなたがそうしてくださったように。」
こうしてけいり長は男を放し、その夜、自分のきょうかたびらを用意しました。
つづく
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