その1
昔ある町で反乱(はんらん)が起こりました。そこで国王は反乱をおさえ、首ぼう者たちをとらえ、民衆(みんしゅう)を安心させるために、軍をはけんしました。
国王の軍はその町へとしゅつじんし、反乱者たちと戦ってようやくさわぎを収(おさ)めることができました。そして反乱が収まると、兵士たちは、あちこちに散らばってとうぼうした首ぼう者の仲間たちを追いかけました。
そんな中で、兵士たちのある集団が、けんを構(かま)えて首ぼう者の一味だとされる、ある男の家を取り囲んでおそいました。
その間かれらの隊長は、屋しきの真ん中にある池のほとりで、その様子をすぐ近くで見張っていました。するとすぐに、一人の兵士がとびらからある男を連れ出してきました。
見るとそれは、短いあごひげを生やした、とても背(せ)の高い男です。しかし男はみじんもこわがる様子を見せず、兵士たちの間を、しっかりとした足取りで歩いています。そして男は妻(つま)を呼(よ)び、かの女が家の中から出てくるとこう言いました。
「子どもたちは君にたくす。わたしの父がしたように、あの子たちをしっかりとしつけなさい。そして、人は自分が真実と信じたことのためにいかに死ぬかを教えてやりなさい。わたしはこうして、おそれずに自分の帰りどころへと行くのだ。わたしの命は神の御手(みて)にゆだねてあるのだから。」
兵士たちは男をくさりでつなぎ、かれを連れて屋しきの外へ出ました。妻(つま)は子どもたちのそばで目になみだをいっぱいためて、それを見送りました。
それからしばらくして、男はとらえられたほかの反乱者(はんらんしゃ)たちと共に、国王のいる首都へと送られました。そこでそれぞれの行く末を決められるために。
男たちを運ぶキャラバン隊はちょうど昼ごろにとうちゃくし、かれらはみな鉄のくさりでつながれたまま取調べの広間へと入れられました。
その広間で、国王は、家臣やけいりたちの真ん中にすわって何事か話していました。国王は、すばやく反乱(はんらん)をおさえることができて喜んでいる様子でしたが、やがて連れてこられた反乱者たちに目を向けました。するとかれらはとたんにうなだれ、だれも国王を見上げる度胸(どきょう)のある者はいませんでした。いえ、ただ一人の男を除(のぞ)けば。
その男はまっすぐに頭を上げ、自分の行く末のことなど気に留(と)めていない様子です。国王が男の方を見ても、かれは全く視線(しせん)を落とすことなく国王を見続けています。
そこで国王はけいり長に合図を送りました。するとかれは急いでやって来て、国王の前でかしこまって体を折り曲げました。
国王がけいり長の耳元で何かささやくと、かれはすぐに後ろへ下がり、先の男のところへ行きました。そしてその男を、たいほ者の列の一番後ろに立たせたのです。
それから国王はたいほ者たちを一人一人じん問し、それぞれに翌朝実行(じっこう)されるけいばつを言いわたして、その日の調べを終えました。しかし国王がけいりに耳打ちした男だけが、何の言いわたしもないまま残されたのです。
やがて国王は立ち上がり、「その男を留置(りゅうち)せよ。そして明日の朝早く、わたしのもとへ連れてくるのだ。」とけいり長に命じて立ち去り、城(しろ)へと帰っていきました。
その後、家臣たちも次々と立ち去り始めたので、けいり長はけいりの一団(いちだん)を呼(よ)んでこう命じました。
「この男をわたしの屋しきへ連れて行きなさい。わたしもすぐにもどる。」
命令を受けたけいりたちは、鉄のくさりにつながれたその男をそこから連れ出しました。
一人になったけいり長はしばらくその場に残り、おどろきの気持ちでこうつぶやきました。
「あの男はわたしにまほうでもかけてしまったようだ。なぜかわたしは、あの男に敬(うやま)いの気持ちを感じてならない。わたしはあの男に以前会ったことがないだろうか? それに、なぜ国王はかれだけをほかのたいほ者と区別して、わたしに預(あず)けたのだろうか……?」
けいり長は落ち着かない気持ちになり、頭の中の整理がつきませんでした。それから自分を不安にさせているあの男に早く会うことだけを考えて、急いで馬に飛び乗りました。
屋しきに着くと、けいり長は真っ先にあの男のことをたずねました。そしてかれのくさりを解(と)いて食事を取らせ、汚れを洗(あら)い流させて、かれの気持ちがじゅうぶんに休まってから、ここへ連れてくるように命じました。
男が入ってくるまで、けいり長にとってはたえがたいほど重苦しい時が流れました。そしてやっと男が現(あらわ)れたので、けいり長は急いでこうたずねたのです。
「あなたがつかれをいやしてくれていればいいが、と願います。実はあなたに関して、ある理由でわたしはとまどっているのです。ですからこれからわたしがたずねることに対して、どうか正直に話してください。あなたがだれだかわたしは知りたいのです。わたしがよく知っている人にあなたはとてもよく似(に)ているものですから。」
すると男は、ごく落ち着いた様子で、「わたしは、国王への反乱(はんらん)が起きた町からきた者です。」と答えました。
それに対してけいり長が、「それはわかっています。ですがあなたはその町のだれなのですか?」とたずねると、逆(ぎゃく)に男の方が、「あなたの方こそ、いったいだれについて知りたいのですか?」ときき返しました。
そこでけいり長は、「あなたは〇〇という名の人を知っていますか?」とたずねました。すると男の方もまた、「どうしてその人のことを知っているのですか?」ときき返します。
けいりは、「かれとわたしとの間には、かかわりがあるのです。」と正直に答えました。
それを聞いて男は少しの間だまっていましたが、やがてこう言いました。
「それがどんなかかわりなのかわたしに教えてくれなければ、わたしもその人について教えません。」
そこでけいりは、男の言うとおりに、その人と自分との間に起きたことを話し始めました。
つづく
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