その3
それを聞いたアミールが、「どのように計略(けいりゃく)するのだ?」とたずねると、サアドは次のように言いました。
「わたしはさばくの民(たみ)です。ですからさばくの秘密(ひみつ)をすべて知りつくしています。敵(てき)を、水もなく、昼はしゃく熱の太陽に照らされ、夜はこごえるほど寒い、さばくのおく地へとおびき寄(よ)せればいいとわたしは考えます。」
しかし、アミールはこう言いました。
「それなら敵(てき)が弱る前に、我々(われわれ)の方が弱ってしまうのではないかね?」
サアドが、「いいえ、そんなことはありません。」と答えると、アミールは皮肉をこめて、「わたしたちにだけ、天がめぐみの雨を降(ふ)らせるとでも?」とからかいました。
するとサアドはこう言いました。
「いいえ、そうではないのです、アミール様。それには、あなた様以外のだれにも知られたくない秘密があるのです。」
それからサアドはアミールの前へ進み出て、人ばらいをしてほしいとたのみました。
そこでアミールは側近たちに外に出るよう命じましたが、内心では、このベドウィンの若者(わかもの)がきせきをもたらすなどとは、およそ考えてもいなかったのです。
そこでサアドが、さばくのおく地にかくされているすべての貯水場の地図がかかれてある布(ぬの)切れを取り出して広げて見せると、その地図を見てアミールはとてもおどろき、また喜んでこう言いました。
「けん明なる若者よ、君をさいしょうに任命(にんめい)し、わたしの娘(むすめ)を君にとつがせることにしよう。」
それからアミールは急いで町へもどり、敵(てき)をさばくのおくへとおびき寄(よ)せるため、さばくへの出発準備(じゅんび)を男たちに呼(よ)びかけました。
そしてそれぞれに役目をふり当て、出じんの時と場所を指定しました。男たちはみな命令を受けて出発し、多くの小隊に分かれて行動しました。
そしてアミールの立てた計略(けいりゃく)によって、かれらはさきゅうの上で小隊ごとに散らばりました。サアドはとてもゆうかんに行動し、アミールのそばをけっしてはなれませんでした。
それからアミールは、サアドにこう言いました。
「我々(われわれ)の計略(けいりゃく)を確(たし)かなものにするために、地図にある一番近くの貯水場をためしてみようではないか。」
かれらは布(ぬの)切れにかかれた場所に着くとそこに目印を付け、地図に記された深さまで砂(すな)をほり返しました。すると砂の中から鉄の輪が現(あらわ)れたのです。そこで一人がその輪を引っ張(ぱ)るとそれはふたになっており、動かすと、中は首の高さまであるほどの清い水で満ちた大きな貯水そうになっていたのです。
アミールはそれを見て喜び、ふたたびふたをもどし、元通りに砂でかくすよう命じました。そして男たちはみなさきゅうの後ろにかくれ、そのまま待機(たいき)しました。
それから間もなく、地平線のかなたからさじんがまい上がり、やがて味方のきしたちの一団(いちだん)がとうちゃくしました。そしてその中の一人が進み出てこう言いました。
「アミール様、うまくいきました。我々(われわれ)はにげているふりをしてここへかけこんできました。ですから敵(てき)たちは我々を追って後方に来ています。」
こうして敵たちは、持って来た水がつきるまでの数日間しか生き延(の)びることのできない、さばくのおく地へとおびき寄(よ)せられたのです。しばらくするとかれらはのどのかわきにあえぐようになり、ベトラーの民(たみ)を追いかけるのにつかれてしまいました。
アミールは軍の先頭に立ち、敵(てき)の軍の方へと近付きました。かれらはついに力つき、一人また一人とたおれています。
するとアミールは味方の軍の男たち数人に向い、敵(てき)の兵士の見ている前で、水浴びをして見せるよう命じました。
べトラーの男たちが水浴びするのを見た兵士たちはたまらなくなってそう然としはじめ、水を求めてついに全員がこうふくしたのです。
アミールは、敵(てき)の兵士たちが戦(いくさ)をあきらめるのを見届(みとど)け、かれらに水や食りょうをあたえて、かれらを急いで救助するよう命じました。
まことの男らしさや勇気とは、弱い者たちを苦しめることではないからです。
勝利を収(おさ)めたアミールと民衆(みんしゅう)は、翌日(よくじつ)、ほりょたちを連れて町へもどりました。すると家々のげんかんからはみななわばしごがつるされ、女や子どもたちが大喜びで次々と降(お)りてきました。こうして人々はみな町が救われたことを祝い、喜びに満ちた日々を過(す)ごしたのです。
それからアミールは、町を救った英ゆうサアドに娘(むすめ)をとつがせ、国中にかれらの結こんの祝いを知らせました。
かつてサアドの母は、やさしく親孝行(おやこうこう)な息子(むすこ)に心から満足してなくなりました。
そしてその満足が、サアドに新しい幸せを呼(よ)んだのでした。そしてかれの勇気とけん明さが、さらにその幸せをより大きなものへと変えてくれたのです。
おわり
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