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アラビアもよう
アラブのどうわ


 ■アラブのどうわ 第55回 「さばくで その2」

その2

 素晴(すば)らしいしゅん馬を得た喜びで、サアドは自分がどれほどの間走ったのか、またどれぐらい進んだのか、まったくわからないほどでした。こうして、いつの間にかかれはベトラーという町へたどり着いたのです。

さばくで その2  ベトラーの町は、ほかのどんな町とも感じがちがっていました。谷間に高くそびえるきょだいな岩山をけずって、その中に家々が造(つく)られていて、それなのに、大理石の柱やかがやく銅(どう)のとびらでできているそのげんかんへと登っていく道は、どこにも見当たらないのです。

 サアドはげんかんの美しさにおどろく一方で、そのことが不思議でなりませんでした。

いったい人々は、どうやって谷間よりあんなに高いところにそびえる家に登り、中へ入っていくのだろう、と。

 それからしばらく行くと、サアドは住人たちを見かけました。そこでその一人にこうたずねました。
「今晩(こんばん)休む場所と、空腹(くうふく)をしのぐ食べ物、それから馬のえさや水を、ここで見つけることができますか? しはらいの用意はじゅうぶんにあります。」

 すると真っ白なあごひげを生やした町の長老が進み出て、こう応(おう)じました。
「若者(わかもの)よ、我々(われわれ)があなたのお世話をします。あなたが入用のものをご用意しましょう。」

 そこでサアドはこう言いました。
「ありがとうございます。しかしその前に教えてくださいませんか? わたしが見たあの家々のげんかんは、本当に人が住んでいる場所なのですか? もしそうなら、どうやって人々はあそこまで登り、また降(お)りてくるのですか?」

 すると老人はこう答えました。
「簡単(かんたん)なことですよ。すべての家に、自分たち専用(せんよう)のなわばしごがあるのです。
 住人たちは好きな時にそれを使います。ここではみな、戦(いくさ)やしんりゃくから家を守るために、そうやって努力して生きているのです。ベトラーの町は、大変ゆう福な町ですからね。商売でインドや中国へ向かうキャラバン隊や、また逆(ぎゃく)にヤマンやアデンから帰ってくるキャラバン隊が、みなここで休息を取るために集まってくる町なのですから。」

 それを聞いたサアドが、「この町のアミール(首長)はだれですか?」とたずねると、老人はこう答えました。
「我々(われわれ)のアミールはハーリス様です。今は側近たちを連れて、かりに出かけておられます。」

 それから食事を終え、のどをうるおして神に感謝(かんしゃ)をささげたサアドは、宿のほうこう人に馬のつなをたくして、ソファの上で横になりました。そしてこの世の不思議について考えをめぐらせているうちに、ねむりに落ちていきました。

 それからどのぐらいたったころか、馬でかけてくる男の大声がしたかと思うと、かれは急いで長老の家へ入って来てこうさけびました。
「しんりゃくだ!」

 長老の家に集まっていた人々は、そのしゅんかん、おどろきで身動きもできませんでした。まるでそれぞれが頭に鳥でも乗せているかのように。

 しかし、すぐに一人の男が静じゃくを破(やぶ)って言いました。
「災難(さいなん)だ! いったいどうすればいいのだ。」

さばくで その2  人々はみなおたがいに顔を見合わせて、助かる道をさぐりあいました。するとその時そこにいたサアドが静かな声で、「たやすいことです。」と言ったのです。人々はおどろいてかれの方を見ました。しかしどの目も、まだ年若(わか)いこの青年が解決(かいけつ)をもたらすとは思えない、と語っていました。

 そこで長老が、「いったいどうやってですか?」とたずねると、サアドはこう言いました。

「だれかわたしを、アミールのいる場所へ連れて行ってください。わたしにある考えがあります。女子どもはみな家へ登り、入り口をすべて閉(し)めさせてください。そしてその前に、貯水場の周辺をみな取りこわし、敵(てき)に役立つ馬のえさやら食べ物やらを、全部焼き切ることを忘(わす)れないように。」

 人々はこんわくし、まるでちえある指揮官(しきかん)のように自信を持って話すこのベドウィンの若者(わかもの)が言うことについて、あれこれと話し合いました。しかし結局、ほかにいい方法を思いつかず、サアドの意見に従(したが)うことになりました。

 人々のうち2人の男がサアドのお供(とも)をすることになり、3人でベトラーのアミールであるハーリスの居場所(いばしょ)を探(さが)しにさばくへと出かけました。

 それからしばらくすると、しんりゃく者たちがベトラーの町へ入りこみ、谷間を包囲したのです。

 サアドと供の者たちは必死で探(さが)し回り、ようやくアミールの居場所にたどり着きました。そしてかれらはアミールのテントに入り、すぐに事のしだいを伝えたのです。

 知らせを聞いて、アミールはしばらくだまっていましたが、側近たちの方を見て、かれらの意見をたずねました。しかし側近たちの中でも意見が分かれていました。

 敵(てき)への反げきを呼(よ)びかける者もいれば、それより何か策略(さくりゃく)を探(さが)そうと言う者、また敵の条件(じょうけん)をのんで降伏(こうふく)しようという者もいました。
 アミールはサアドの方を向き、こう言いました。
「若者(わかもの)よ、かれらのどの意見がいいと思うか?」

 するとサアドが口を開く前に、供(とも)の者がこう言いました。
「この若者は、我々(われわれ)に、あなた様のところへ連れて行くように申しました。あなた様にしか明かせない秘密(ひみつ)の考えがあるのだと言うのです。」

 そこでサアドはこう続けました。
「その通りです、アミール様。そしてそれは容易(ようい)なことでございます。戦(いくさ)は計略(けいりゃく)であるというではありませんか。」

つづく


【ハキムのひとこと】

ハキム

 サアドはとても豊(ゆた)かな町に行き着いたのですが、その町はいつも外国からのしんりゃくにさらされていました。そんな町の一大事に出くわし、サアドは町の人々を助けようと立ち上がりました。
 さばくで育ったかれの英知とゆうかんさ、そして母にたくされたあの秘密(ひみつ)の地図が、人々を救う時がやって来たのでしょうか?!

 

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