その4
少年は若者(わかもの)の片手(かたて)を取ったまま、さやで若者のうなじを打ち始めました。すると若者はなぜかまた笑い出し、その笑い声はさやが新しくふり下ろされるたびに大きくなるのです。
さやで打たれた首はすでに傷(きず)だらけになり、痛(いた)さで耳もよく聞こえないほどだというのに、若者(わかもの)の笑いはやみません。
王はそれがふに落ちず、落ち着かなくなりました。
そして最初の20回の首打ちが終わると、若者は大きな声で言いました。
「陛下(へいか)どの、進言がございます。」
すると首打ちは止められ、王はしずんだ様子でききました。「どんな進言だ?」
そこで若者は落ち着いてこう言いました。
「陛下(へいか)どの、この世で信義(しんぎ)ほどすばらしいものはなく、裏切(うらぎ)りほどみにくいものはありません。わたしを陛下のもとへ連れてきたじじゅう様は、ほうしゅうの半分だけわたしに下さると約束なさいました。しかも陛下どの、あなた様はそのほうしゅうを2倍にしてくださいました。ですから首打ちをされるたびに、残りの半分はじじゅう様のものだということを思い出し、おかしくて笑ったのです。」
それを聞くと王は笑い出し、足を打ち鳴らし、おなかをかかえて笑い転げました。そしてようやく笑いが収(おさ)まると、家臣たちに向かって、じじゅうを呼(よ)ぶようにと命じました。
じじゅうがやって来ると、王は、かれに残りの20回の首打ちをするよう命じました。そこでじじゅうがおどろき、「陛下(へいか)どの、いったいわたしがなにをいたしましたでしょうか? わたしはいったい、どんな罪(つみ)に問われているのでしょうか?」とたずねると、若者がかれに向かって、「これはあなたと分け合う約束だったわたしのほうしゅうです。わたしはもう半分をいただきましたから、もう半分はあなたの分ですよ。」
そしてめし使いの少年は命令どおりじじゅうをとらえ、20回の首打ちを始めました。王は相好(そうごう)をくずして笑い、じじゅうはただただ痛(いた)みにたえるしかありませんでした。
やがて首打ちが終わると、王の笑いも止まり、若者(わかもの)に向かってこうききました。
「若者よ、おまえはどうしてじじゅうについて疑(うたが)いを持ったのだ? わたしが見るところ、おまえは大変かしこい者だ。どうもおまえには、じじゅうにつぐなわせたいことがあるように見受けられるが、どうか?」
そこで若者はあらためて姿勢(しせい)を正し、今まであったことをすべて王に話しました。すると見る間に王の顔は真っ赤になり、その目にはいかりのほのおが燃(も)えさかりました。それからけんよりするどく厳(きび)しいまなざしでじじゅうをふり返り、そして隊長の一人にこう命じました。
「ここへ兵士たちをみな今すぐ連れてこい。そしてこの若者に、その中から不義(ふぎ)を働いた者を見つけ出させるのだ。」
やがて船着場の兵士や、川岸の守衛(しゅえい)兵、そしてバグダッド大門の門兵たち、それから若者をむちで打った黒人どれいが、みなくさりでしばられたままやってきて、そこにじじゅうが加えられました。
王は若者の話が本当であることを確(たし)かめ、それからばつをあたえるためにかれらをろうへ入れました。それから王は若者の方を向き、こう言いました。
「きみはわたしを喜ばせる以上のことをしてくれたのだ。わたしが気がつかないでいた、人々を苦しめる不義(ふぎ)について教えてくれたのだから。
そこでわたしは、きみがこのままここへ残って新しいじじゅうになり、きみの敵(てき)たちがふはいさせたものを立て直してくれればいいと思うのだが、どうだね?」
こうして若者(わかもの)は王のじじゅうに任命(にんめい)され、その役目を良く果たし、人々の安心を取りもどしました。かれは公正と信義(しんぎ)によって人々を治めたのです。そしてかれは、苦しいときに自分を助けてくれたあの老人のことを忘(わす)れてはいませんでした。そこでかれに恩(おん)返しをし、王のもとで手厚(てあつ)くもてなしました。
その後、若者は、自分をバグダッドへと向かわせたかつての夢(ゆめ)をかなえ、かれと同じように善良(ぜんりょう)な女性(じょせい)とめでたくけっこんしました。そして王はそれを祝い、かれらに庭付きの家をあたえたのでした。
若者は残りの人生を、神様からさずかった妻(つま)や子どもたちといっしょに幸せに暮(く)らしました。そして心から神様に感謝(かんしゃ)をささげたのでした。
おわり
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