その3
それから一週間ほど若者(わかもの)は老人の家で過(す)ごし、そのあいだ毎朝、王の城(しろ)の近くまで行って、城の内部や周囲を観察しました。家臣たちをすりぬけて、どうにか王に事をうったえ出るきかいを持てないものかと。しかしながらかれの願いはここでもまたかないませんでした。
ある時あきらめかけた若者がそうして立ちつくしていると、兵士たちの集団(しゅうだん)がやってきてかれを取り囲み、城(しろ)の中へ連れて行きました。若者はじじゅうの前につき出されたのです。何がなんだかわからずにいると、兵士の一人がじじゅうに向かってこう言いました。
「じじゅうどの、ご命令どおりに、今日最初に目に止まった人間を連れてまいりました。」
すると、じじゅうは、「よろしい。その者をここに残し、おまえたちはもう下がってよい。」と言いました。
そのやり取りを聞いていた若者(わかもの)は、じじゅうの方を見ました。それは色が黒く背(せ)の低い男で、落ちくぼんだ目と曲がった鼻の持ち主でした。
それを見た若者(わかもの)は、この男の残こくそうなふんいきに身ぶるいする思いでしたが、心の中でこうつぶやきました。
「このきかいを絶対(ぜったい)にのがしてはならない。」
じじゅうは若者を指さしながら、こう言いました。
「そこの者、前へ出ろ。おまえはしごくごきげんの悪い王様のおん前に出るべく連れてこられたのだ。しかし、もし王様を喜ばせることができたなら、ふんだんにほうびがもらえるのだ。そうしたら半分をわしに納(おさ)め、残りは持ち帰らせてやろう。」
若者は、じじゅうのこの強欲(ごうよく)さを見て、自分が今までに見た兵士たちの悪行も、じじゅうの命令によるものにちがいないと確信(かくしん)したので、ためしにこう答えてみました。
「じじゅう様、わたしは弱く貧(まず)しいものでございます。しかしあなた様のおかげで神のめぐみが得られるのでございますから、そのうちの少しを、そう、5分の1を、いえ4分の1ほどをどうかお取りくださいませ。」
しかしじじゅうはがんとして半分差し出すように命じたのです。
それからじじゅうは若者(わかもの)の手を引いて王のいる部屋へと連れて行き、かれを王の近くに立たせました。王は本を読んでいたのですが、若者を見てそれを閉(と)じたので、それを見てじじゅうは安心し、部屋から出て行きました。
王は若者のほうへ頭を上げ、こう言いました。
「おまえは危険(きけん)な立場に立たされているのだ、若者よ。すべてはおまえの運しだいだ。わたしの心を喜ばせ、ゆううつを晴らすことができたならば、おまえにふんだんにほうびをやろう。しかしそうでなければ、このけんのさやでおまえを20回打ちつけてやろうぞ。」
それを聞いて若者は心の中でつぶやきました。
「なんていうことだ。一難(いちなん)去ってまた一難。しかも災難(さいなん)はどんどん大きくなるばかりだ。これはきっと自分では気付かずにしてしまった何かのあやまちのむくいにちがいない……。」
そしてかくごを決めて王に向かって言いました。
「わかりました、陛下(へいか)どの。最善(さいぜん)の努力をいたします。」
それから若者(わかもの)は、必要にせまられてありったけのちえをしぼり、知っている限(かぎ)りの物語や小話を話しました。しかしその努力もむなしく、とうとう最後にはもう何も知っている話がなくなってしまい、どうすればいいかとほうにくれてしまいました。
かれの後ろにいたほう公人たちは、若者の話に笑いをこらえきれず、部屋から出て行ってしまい、もうだれも残っていません。それなのに王はといえば、いぜんとしてじっとしているのです。そこで若者は正直にこう言いました。
「陛下(へいか)どの、あなたのお力を神がながらえて下さいますように。先ほど陛下は、このむくいとして20回の首うちを約束されました。しかしわたしはそのむくいをさらにもう20回増(ふ)やして、2倍にしていただきたく思います。」
そのきみょうなたのみを聞いて、王は思わず笑い出しそうになりましたが、寸(すん)でのところでこらえ、「よし、そうしよう、若者(わかもの)よ。」と言いました。
すると若者はうれしそうに大声で笑いました。王はそれにおどろき、「若者よ、どうして笑うのだ? 首うちにおかしいことなどあるまいに。」とたずねると、若者は、「むくいをお受けしてからお話しましょう。」と答えました。
そこで王は「いいだろう。」といい、大声でほうこう人の少年を呼(よ)び、「この者の手を取るように。」と命じました。
つづく
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