その2
やがて王の城(しろ)にたどり着いた若者(わかもの)は、そのかれいさにしばし息を飲んで見とれました。
美しい城に、見たこともない素晴(すば)らしい庭園。そこでは木々が豊(ゆた)かにおいしげり、そよ風がりょうを運んできます。若者は、まるで自分が楽園にいるようだと思いました。耳にはさまざまな小鳥たちのさえずりが聞こえ、そこにいる者を幸せな気持ちで満たしてくれます。
若者は城(しろ)の天つくような高い建物や美しいとう、そしてにしきの衣しょうを着て行き来する家臣たちにすっかり目をうばわれてしまい、思わずこうつぶやきました。
「神よ、あなたにたたえあれ。お望みの者に富(とみ)をおあたえになり、またお望みの者に富を禁(きん)じられるお方よ。」
若者がその美しい光景におどろき、思いをめぐらせていると、とつ然一人の黒人どれいが目の前に現(あらわ)れ、ラクダのつなを激(はげ)しく引っ張って若者を地面にふり落としました。そしておこってこう言うのです。
「このおろか者め。よくもまあ自分のラクダを王様の土地にふみ入れさせたものだ。神にちかって、おまえがもし若(わか)い未熟(みじゅく)者でなかったなら、とっくの昔に首を切りつけているところだ。おれが考えを変えないうちに、さっさと行くがいい。」
すると若者(わかもの)は立ち上がり、服の土くれを手ではらいながらこう言いました。
「わたしは悪いことをするためにここへ来たのではありません。王のじじゅう様の名をかたった兵士たちに、わたしはラクダや荷をうばわれました。だから、じじゅう様にそのことをうったえ出て、王様に進言してもらおうと思ったのです。そうすれば王様は、きっとわたしが受けたひがいをつぐなってくださり、臣民を不義(ふぎ)から守ってくださるだろうと思うのです。」
若者がそう言い終わらないうちに、どれいの男はむちをかかげてかれを激(はげ)しく打ちました。そこで若者はあわててにげ回り、最後には城(しろ)の外へところがり出たのでした。若者はみじめな気持ちで一ぱいになり、目になみだをいっぱいためてとぼとぼと歩き出しました。体と心の傷(きず)が余(あま)りに大きく、若者の心は悲しみでおおわれてしまいました。短い間にたくさんの災難(さいなん)にあい、こんなに早く大きな希望を失ってしまったのですから。
やがて若者(わかもの)は一本のなつめやしの木かげにすわり、悲しみにしずみながらユーフラテス川の流れに目をやりました。そしてしばらくすると今まで体中にたまっていたつかれが一気にふき出し、すいまにおそわれてそのまま深いねむりについてしまいました。
それからどのぐらいたったのかわかりませんが、若者はだれかにやさしくかたをゆすられてふと目を覚ましました。
するとそこには一人の老人が立っていました。今まで多くの者たちに散々な目にあってきた若者は、またもや何かされるかもしれないと思っておそれ、あわててこう言いました。
「いったいこれ以上わたしから何がほしいというのですか……?」
すると老人はおだやかにこう言ったのです。
「わたしはあなたに助けを申し出たいのです。あなたはだれよりも今助けが必要な人に見受けられましたから。あなたの服を染(そ)めているその血を見て、わたしはそう思ったのです。」
それを聞いて若者は、敬(うやま)いの気持ちでだまって老人を見上げました。すると老人は手を差しのべて若者を起こし、こう言いました。
「さあ、若者よ。わたしの家へ行きましょう。傷(きず)の手当てをしてあなたの話を聞き、そしてできる限(かぎ)りのことをしましょう。」
老人の家で傷の手当てを済(す)ませると、若者はぐっすりねむりました。そしてあまりにつかれていたので、翌朝(よくあさ)の礼拝(れいはい)の呼(よ)びかけに気付かず、日が高くなってからようやく目を覚ましました。
起きると、老人が食事のしたくをして待っていました。そこで食事を済(す)ませ、若者(わかもの)は、老人に今までのことを一から十まですべて話しました。聞き終わると老人は若者をはげましてこう言いました。
「あきらめないで、王様のもとへたどり着ける方法を探(さが)しなさい。王様はあなたを公正にあつかってくださる。王様はあくどいじじゅうが何をしているのかお知りにならないのだ。心が静まり、以前のようにしっかりとものが考えられるようになるまで、わたしのところで過(す)ごしなさい。」
つづく
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