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アラビアもよう
アラブのどうわ


 ■アラブのどうわ 第50回 「王のじじゅう その1」

その1

王のじじゅう その1  昔ある村に、一人の若者(わかもの)がいました。若者はまじめに働き、やっと一けんの小さな家を持つことができました。レンガ造(づく)りのその家には木わくの窓(まど)があり、家の周りは高いかべで囲まれています。

 重労働からぐったりとつかれて帰ると、庭の池の周りにすわって休み、ここちよい夕風にあたってりょうを味わうのが、若者の毎日の楽しみでした。

 ある日、若者は、その年の食料としてじゅうぶんなナツメヤシの実を倉に納(おさ)め、残りのしゅうかくをたくさんのかごやふくろに分けてつめながら、心の中でこう言いました。
「長年苦労して一生けんめい働いてきたが、神様がようやく今、こうしてわたしにおめぐみをさずけてくださった。あとはこのナツメヤシの実をバグダッドで売るだけだ。そうすればやっと婚資(こんし)ができて、心にかなったおよめさんをもらうことができる。
 そうすればわたしの人生も喜びにあふれ、今までの一人ぼっちのさびしさを幸せに変えることができるだろう。そしていつかはたくさんの子どもにめぐまれて幸せな家族を作り、神様に感謝(かんしゃ)をささげるのだ。」

 それから若者(わかもの)は、数頭のラクダの背(せ)にナツメヤシの実のかごを乗せ、自分もその中の一頭に乗って、ほかのラクダを引きながら、バグダッドまで半日ほどの道のりを行きました。

 やがて長旅の末、若者はやっとユーフラテス川のほとりに着きました。

 しかしその時、手にはするどいやりを手にしてこしにはけんを差した一人の兵士がどこからか現(あらわ)れ、とつぜん若者の行く手をはばんでこう言いました。
「止まれ、若造(わかぞう)よ。ラクダに荷を積んでここをわたりたければ、王のじじゅう様のいかだでわたるしか方法がないのだ。そのためには、その荷の半分をここで差し出さねばならぬ。」

 それを聞いて若者はおどろき、ほかにだれかいないかとあわててあたりを見わたしました。そして、岸にうかぶ自分たちの船のそばにすわっているりょうしたちに目を留(と)めました。しかしりょうしたちはみなじっとして動こうとしません。若者はしかたなくかれらを大声で呼(よ)びましたが、だれ一人返事もしないのです。

 するとそれを見ていた兵士はこう言いました。
「ばかばかしい。むだなことはよせ。おまえのために船を出そうなんて勇気のあるやつはだれもいやしない。そんなことをしようものならわざわいを招(まね)くだけなのだ。その者の首にはじじゅう様のおいかりが下るだろうからな。」
 それを聞いて若者は、あきらめるしかないことをさとりました。

 こうしてじじゅうのいかだ船は、若者とラクダたち、そしてその背(せ)に乗せられた荷を乗せて川をわたりました。

 しかし、向こう岸に着くやいなや、またもや別の兵士が現(あらわ)れて、岸に荷を下ろすのをはばんでこう言いました。
「じじゅう様の守衛(しゅえい)たちにこの荷の半分を、ここでしはらうのだ。そうでなければラクダを岸に下ろすことはまかりならぬ。」

王のじじゅう その1

 若者はおし問答の末、自分にこばむだけの力のないことを話し合ってもしかたがないと思ってあきらめ、言うとおりにするしかありませんでした。そして最初の4分の1に減(へ)ってしまった残りの荷と共に、バグダッドのじょうへきへと向かいました。

 しかし、じょうへきの門番のところまでたどり着くやいなや、若者は、またまた多くの兵士たちに止められてしまい、兵士たちの隊長はこう言うのです。
「おまえにはラクダを一頭残してやろう。そのほかのものはじじゅう様に納(おさ)められる。それによっておまえは、このいだいなるバグダッドに入るのを許(ゆる)されるのだ。」

 それを聞くと、とうとう若者(わかもの)のいかりはばく発してしまいました。じじゅうの名のもとに、兵士たちは、自分が長年かかって苦労して手にしたものをみんなうばい取り、自分がえがいた夢(ゆめ)はすべて風に飛ばされてしまったのですから。若者はいかりに任(まか)せてさけびました。

「わたしにいったい何が残るというのだ?! 船着場の兵士が荷の半分をもぎ取り、川岸の守衛(しゅえい)兵がそのまた半分をけずり取り、そしてここでもあなたたちはその残りまでうばおうと言うのですか。神にちかって、わたしはこのことをきっとじじゅう様に知らせます。じじゅう様の名をかたった悪行の行く末がどんなものか、あなたたちにはわからないのだ。」

 すると隊長は、若者の思っていることを知ってあざ笑いました。そしてほかの兵士はけんの腹(はら)でラクダのしりを引っぱたいて、こう言いました。
「それを信じてじじゅう様に会った時には、おまえに神のお助けがあるように願っているよ。」

 こうして若者とラクダは、ようやくバグダッドの大門を入りました。若者は、王の城(しろ)をめざしてバグダッドの小路を急ぎました。自分を苦しめ、すべてをうばった兵士たちのことを、王にうったえ出ようと思ったのです。

つづく


【ハキムのひとこと】

ハキム

 一生けんめい働いてやっとしゅうかくしたナツメヤシの実の荷やラクダたちを取り上げられ、若者(わかもの)がえがいた夢(ゆめ)はまるであわのように消えてしまいました。しかし、それでもまだ若者はあきらめてはいないようです。いったいかれは、本当に無事に王のもとへたどり着くことができるのでしょうか??

 

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