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アラビアもよう
アラブのどうわ


 ■アラブのどうわ 第48回 「ハリーファとおなかをすかせた子どもたち」

 昔アラビアの地に、けんきょに神様に仕え、立派(りっぱ)に国を治めていたオマルというハリーファ(※)がいました。

 [※預言者(よげんしゃ)モハンマドの死後、神を信じる人々の長として国を治めた人のこと]

ハリーファとおなかをすかせた子どもたち  オマルはいつも夜になると、人目につかないように変装(へんそう)し、住民たちの様子を見に行きました。そうすれば、自分の知らないところで苦しんでいる貧(まず)しい人や、だれか悪い人のせいでひどい目にあっている人を見つけて、救いの手を差しのべることができるかもしれないからです。

 その夜も、オマルは変装(へんそう)をして暗やみの小みちを歩いていたのですが、どこからか、子どもたちの泣く声が聞こえてきます。そこで泣き声がするほうへ引き寄せられて行くと、その声はある質素な小屋から聞こえてきました。

 小屋の戸が開いていたのでオマルが入ってみると、そこには一人の老ばと5人の子どもたちがいました。見ると、一番上の子でもまだ10才にも満たないようです。子どもたちは老ばのそばにすわり、かまどにはなべがかかっていて、中では何かがにえているようでした。

 そこで心やさしいオマルは老ばにたずねました。「この子たちはどうして泣いているのです?」
 すると、老ばは「そりゃあ、おなかがすいているからだよ。」と答えました。

 オマルが、「それじゃあどうしてなべの中のものをあげないのですか?」と言うと、

 老ばはさげすむようにオマルを見てこう言いました。
「旅のお方よ、子どもたちに小石を食べさせろというのかい? そのなべの湯の中には、子どもたちに何か食べ物をこしらえていると思わせるように、ぐつぐつと音のする小石を入れているだけなんだよ。あの子たちには汁(しる)が今にもにできあがるように言ってあるのさ。神様はうそをつくのを禁(きん)じられているというのにね。でもそう言えばいずれ待ちくたびれてねてしまうだろうからさ。」

 その言葉は、川の流れのようになめらかに老ばの口をついて出ました。まるで、それがいつものことのように。
 それからかの女は、国を治める者たちは身勝手で不公平だし、町の金持ちたちは自分たちびんぼう人の苦労など考えもしない、商人たちはといえば、びんぼう人たちを食い物にして財(ざい)を成すことに熱中するばかりだと不平を言いました。

 そして最後に、「びんぼう人は小屋の中でだまって死んでいき、ハリーファ様は城(しろ)の中におこもりでご立派(りっぱ)な暮(く)らしさ。びんぼう人のことなんか気にかけもしないんだよ。」と言いました。

 老ばは、変装(へんそう)しているオマルが、実はハリーファだなんて、夢(ゆめ)にも思っていないのでした。そこでオマルはこう言いました。
「それが本当なら、どうしてオマルのところへ行って、自分と子どもたちの貧(まず)しさをうったえないのです?」

 すると老ばはこう言い放ちました。
「どうしてわたしが行かなくちゃあならないんだい? 国を治める者こそ民(たみ)のためにいるんじゃないのかね? 一体、神様の前で責任(せきにん)を問われるのはだれのほうだというんだい? かれのほうかい? それとも、わたしたちのほうかい?」

 それを聞いてこの善良(ぜんりょう)なるハリーファは、老ばの言う通りだと思いました。
 自分はこの国を治める者として、民に対する義務(ぎむ)をきちんと果たすべき人間なのだから、その仕事をまっとうしたかどうか神に問われるのは、わたしのほうなのだ、と。
 だからこの国に暮(く)らす人たちの状態(じょうたい)について、もっと一生けんめいにたずねなければならなかったのだ、と心から反省したのです。


ハリーファとおなかをすかせた子どもたち

 そこでオマルは急いで小屋を出て倉庫へ行き、栄養のあるいろいろな食りょうをふくろ一ぱいに満たしました。そしてそれを背中(せなか)にかついで老ばの小屋へともどり、かのじょと孫たちの食事の準備(じゅんび)を手伝いました。

 食事ができ上がるとオマルは小屋の片隅(かたすみ)にすわり、老ばと子どもたちが一心に食べる姿(すがた)を見つめました。やがておなかがいっぱいになった子どもたちが笑い声をあげると、オマルはようやく安らいだ気持ちになったのです。

 すると老ばは、旅人をよそおったハリーファに向かって歩み寄(よ)り、その親切に感謝(かんしゃ)してこう言いました。
「あなたは本当に良いお方だ。オマルに代わって、あなたのようなお方がわたしたちのハリーファであったなら!!」

 それからオマルはうれしい気持ちで屋しきへもどりました。そして、あの子どもたちが大人になり、自分たちと祖母(そぼ)の生活のめんどうがみられるようになるまで、国からのえんじょを絶(た)やさないようにと命じたのでした。



【ハキムのひとこと】

ハキム

 国を治める人たちには大きな責任(せきにん)があります。その責任をよく果たすためには、国の人々が健全に暮(く)らしていける状態(じょうたい)にあるのかどうかを、いつでも気にかけて調べなければなりません。

 国を治める仕事を任(まか)されたオマルは、神様を心からしんこうする人でした。そのため、もし自分のたいまんのせいで、国の人たちが不正義(ふせいぎ)にあったり、身を守れなかったりした時には、神様はいずれ自分にその責任を問われるのだということをよく知っており、そのことを心からおそれていたのです。だから、国民のために一生けんめい働こうと思い、こうしていつも身分をかくして夜の見回りを続けていたのですね。

 

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