昔アラビアの地に、けんきょに神様に仕え、立派(りっぱ)に国を治めていたオマルというハリーファ(※)がいました。
[※預言者(よげんしゃ)モハンマドの死後、神を信じる人々の長として国を治めた人のこと]
オマルはいつも夜になると、人目につかないように変装(へんそう)し、住民たちの様子を見に行きました。そうすれば、自分の知らないところで苦しんでいる貧(まず)しい人や、だれか悪い人のせいでひどい目にあっている人を見つけて、救いの手を差しのべることができるかもしれないからです。
その夜も、オマルは変装(へんそう)をして暗やみの小みちを歩いていたのですが、どこからか、子どもたちの泣く声が聞こえてきます。そこで泣き声がするほうへ引き寄せられて行くと、その声はある質素な小屋から聞こえてきました。
小屋の戸が開いていたのでオマルが入ってみると、そこには一人の老ばと5人の子どもたちがいました。見ると、一番上の子でもまだ10才にも満たないようです。子どもたちは老ばのそばにすわり、かまどにはなべがかかっていて、中では何かがにえているようでした。
そこで心やさしいオマルは老ばにたずねました。「この子たちはどうして泣いているのです?」
すると、老ばは「そりゃあ、おなかがすいているからだよ。」と答えました。
オマルが、「それじゃあどうしてなべの中のものをあげないのですか?」と言うと、
老ばはさげすむようにオマルを見てこう言いました。
「旅のお方よ、子どもたちに小石を食べさせろというのかい? そのなべの湯の中には、子どもたちに何か食べ物をこしらえていると思わせるように、ぐつぐつと音のする小石を入れているだけなんだよ。あの子たちには汁(しる)が今にもにできあがるように言ってあるのさ。神様はうそをつくのを禁(きん)じられているというのにね。でもそう言えばいずれ待ちくたびれてねてしまうだろうからさ。」
その言葉は、川の流れのようになめらかに老ばの口をついて出ました。まるで、それがいつものことのように。
それからかの女は、国を治める者たちは身勝手で不公平だし、町の金持ちたちは自分たちびんぼう人の苦労など考えもしない、商人たちはといえば、びんぼう人たちを食い物にして財(ざい)を成すことに熱中するばかりだと不平を言いました。
そして最後に、「びんぼう人は小屋の中でだまって死んでいき、ハリーファ様は城(しろ)の中におこもりでご立派(りっぱ)な暮(く)らしさ。びんぼう人のことなんか気にかけもしないんだよ。」と言いました。
老ばは、変装(へんそう)しているオマルが、実はハリーファだなんて、夢(ゆめ)にも思っていないのでした。そこでオマルはこう言いました。
「それが本当なら、どうしてオマルのところへ行って、自分と子どもたちの貧(まず)しさをうったえないのです?」
すると老ばはこう言い放ちました。
「どうしてわたしが行かなくちゃあならないんだい? 国を治める者こそ民(たみ)のためにいるんじゃないのかね? 一体、神様の前で責任(せきにん)を問われるのはだれのほうだというんだい? かれのほうかい? それとも、わたしたちのほうかい?」
それを聞いてこの善良(ぜんりょう)なるハリーファは、老ばの言う通りだと思いました。
自分はこの国を治める者として、民に対する義務(ぎむ)をきちんと果たすべき人間なのだから、その仕事をまっとうしたかどうか神に問われるのは、わたしのほうなのだ、と。
だからこの国に暮(く)らす人たちの状態(じょうたい)について、もっと一生けんめいにたずねなければならなかったのだ、と心から反省したのです。
そこでオマルは急いで小屋を出て倉庫へ行き、栄養のあるいろいろな食りょうをふくろ一ぱいに満たしました。そしてそれを背中(せなか)にかついで老ばの小屋へともどり、かのじょと孫たちの食事の準備(じゅんび)を手伝いました。
食事ができ上がるとオマルは小屋の片隅(かたすみ)にすわり、老ばと子どもたちが一心に食べる姿(すがた)を見つめました。やがておなかがいっぱいになった子どもたちが笑い声をあげると、オマルはようやく安らいだ気持ちになったのです。
すると老ばは、旅人をよそおったハリーファに向かって歩み寄(よ)り、その親切に感謝(かんしゃ)してこう言いました。
「あなたは本当に良いお方だ。オマルに代わって、あなたのようなお方がわたしたちのハリーファであったなら!!」
それからオマルはうれしい気持ちで屋しきへもどりました。そして、あの子どもたちが大人になり、自分たちと祖母(そぼ)の生活のめんどうがみられるようになるまで、国からのえんじょを絶(た)やさないようにと命じたのでした。
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