暑さの厳(きび)しいある日、村に住む粉屋とその息子(むすこ)が町へ向かって歩いていました。後ろ手にはんてん模様(もよう)のあるロバを連れて。
二人は額(ひたい)にふき出すあせをぬぐうのに、何度も何度も立ち止まりながら歩きました。
少し行くと、いつの間にか後ろには少年たちが集まり、かれらを小ばかにしてはやし立てました。
「あのばか者二人を見てみろ。こんな暑い日に、神様が乗り物として人間に用意してくださったロバに乗らずに、引っ張(ぱ)って歩いているぞ! なんだってやつらはロバに乗らないのだ?!」
粉屋は息子(むすこ)を見て言いました。
「少年たちが言うことは当たっている。乗り物のロバを連れながら、乗らないで歩いている我々(われわれ)は、よほどおろかにちがいない。」
そして息子(むすこ)をロバに乗せ、自分はそのまま歩きました。
しかしそれもそう長い時間ではありませんでした。少し行くと3人の農夫に出会い、そのうちの一人がこう言ったからです。
「おい、見てみろ。親をかえりみないあの身勝手な息子(むすこ)を! 自分だけ楽をしてロバに乗り、この暑いのに父親を歩かせるなんて!」
農民たちが遠ざかると、粉屋は息子(むすこ)に言いました。
「息子よ、降(お)りて歩きなさい。町に着くまでわたしがロバに乗ろう。」
こうして二人は小高いおかに差しかかりました。
曲がり道を行こうとすると、一人の男とその妻(つま)がそれを見ていました。すると妻の方がまゆを寄(よ)せてこう言いました。
「まあ、なんて身勝手でひどい父親かしら! 自分は楽をしてロバに乗り、この暑いのに息子(むすこ)に照りつける太陽の下を歩かせるなんて。」
粉屋はそれを聞き、息子(むすこ)を自分の後ろに乗せて旅を続けました。
下り坂の真ん中まで来ると、二人はある老人に出会いました。老人は二人を見ていましたが、なげかわしげに首をふり、二人にこう言いました。
「かわいそうに! ロバは、あんたがた二人を一度に乗せるためのものじゃないことぐらい、わかりそうなもんじゃないかね。ロバをあんたがたの手元に置いておきたいのなら、この暑さに二人いっぺんに乗ったりして苦しめないことだ。こんなことをして、少しもはずかしくは思わないのかね?」
気の毒な粉屋は、老人の言葉に大いにはじ入りました。そしてロバから降(お)り、息子(むすこ)もまた降ろしました。さあ、二人は一体どうしたらいいのでしょうか?!
今まで二人がしてきたどんな方法にも、だれ一人満足してくれる人はいませんでした。そこで粉屋はしばらく考えこんでいましたが、ようやくある考えがうかびました。
かれは一本の木から太くてしっかりした大枝(えだ)を切り、さらにそこから小さい枝や葉っぱを取り除(のぞ)いて、その真ん中にロバの手足をくくり付けました。
そしてひっくり返されて大枝につられたそのロバを、かれと息子(むすこ)とでかたにかついで歩き出したのです。二人にかつがれて、ロバは真ん中でゆらゆらとゆれました。
こうして町へ入ると、道や市場で出会う人々はみな、大さわぎしてかれらを出むかえました。大笑いする者たち、おどろいて大声で何事かさけぶ者たち、そしてからかって口笛をふき鳴らす者たちで、町はあふれかえりました。
そして二人が橋に差しかかりかかったところでロバのつながほどけ、ロバは川の方へと飛びはねて行き、川を泳いで向こう岸へわたって、そのままにげてしまいました。
粉屋と息子(むすこ)はぼう然と立ちつくし、ロバが遠ざかるのを見ていました。そしてため息をつきながら、粉屋は息子にこう言いました。
「わたしはすべての人々を満足させようとがんばったのだが、結局だれ一人満足させられなかった。それどころかロバさえわたしに不満だったのだ……。」
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