昔、ある国を治めるアミール(とうち者)に、一人の年老いた友がいました。その友は、しょうがい子どもにはめぐまれず、妻(つま)もまたすでになくなってしまい、一人さびしく暮(く)らしていました。
ある夜のこと、ごうとうたちがその老人の家をおそい、家にしまってあった大金や宝石(ほうせき)、また高価(こうか)なしきものなどを片(かた)っぱしからうばってにげてしまいました。
翌朝(よくあさ)になると老人は、友であるアミールの城(しろ)へと急ぎました。そしてゆうべの災難(さいなん)について、友に話したのです。
アミールは友である老人の災難に深く悲しみました。人生の終わりになってから、そんなひどい目にあってしまった友を思い、気の毒でなりません。そこでアミールは臣下の者たちに、そのごうとうたちを探(さが)し出し、一刻(いっこく)も早くつかまえてげんばつに処(しょ)するよう命じました。
ごうとうたちが老人からぬすんだ金品を使ってしまわないうちに。
アミールの命令を受けて警吏(けいり)たちはごうとうを探(さが)しましたが、どうしても見つける事ができません。アミールは心を痛(いた)め、この件(けん)について側近たちに相談を持ちかけました。
すると知恵者(ちえもの)として知られた一人の側近がこう提案(ていあん)しました。
「アミール様、明日の午前中に、町の住民すべてを城(しろ)の前の広場に集めてください。そこでごうとうたちを必ず見つけてみせます。」
そこで翌朝(よくあさ)、町の住人たちはすべて、城の前に集められました。ごうとうたちは必ずその中にいるはずなのです。
住人たちが集まると、アミールはみんなにこう呼(よ)びかけました。
「神のしもべたちよ、神がわたしたち人間に、いくつかの悪い行いを禁(きん)じられたことはみな、知っているであろう。ぬすみはその中の一つである。わたしは、神の教えにそむいてぬすみを行った者たちが、ここで進み出てみんなの前で罪(つみ)を認(みと)め、ぬすんだ金品を返すよう望んでいる。そうすれば法が定めたぬすみのばつを軽減(けいげん)するつもりだ。」
しかし住民たちは、しんと静まり返ったままで、だれも進み出てぬすみを自白しようとはしません。
そこで先の側近が進み出て、アミールに何事か耳打ちをしました。するとアミールはそれを聞いて、首を縦(たて)にふってうなずきました。
それから側近は、ほうこう人たちに命じて、緑色にぬられた一枚(まい)の木のとびらを持ってこさせました。そしてそのとびらをじっと見つめたかと思うと、住民に向かってこう言いました。
「このとびらを見なさい。このとびらはほかのものとはちがって、知恵(ちえ)のあるとびらであり、口をきくことができる。しかも真実のみを告げるのだ。
わたしが手に持っているこのつえでとびらを100回たたくと、100回目にはごうとうたちの名前を告げるのだ。」
そう言って側近は、早速(さっそく)大きな声で回数を数えながら、その緑のとびらをつえでたたき始めました。そして数えあげる数が増(ま)すにつれ、住民たちはますますちんもくを深め、一体、何が起きるのか息をひそめて見守っています。
やがてついに100回たたき終わると、側近は自分の耳をとびらにすり寄(よ)せて、何かを聞いているようです。そしてそれが終わるとこう言いました。
「とびらは真実を告げた。つまりとびらが言うには、老人の家におし入ったごうとうたちの顔には、ほかの者たちとは容易(ようい)に見分けられる黒いよごれが付いているのだそうだ。」
その時、住民を見張(みは)っていたすべての警吏(けいり)たちは、すばやくかれらを見回しました。そしてある3人の男たちが、罪人(ざいにん)のしるしだと言われたよごれを取り除(のぞ)こうとして、とっさに顔に手を当ててこすったのを見落としませんでした。
かれらはその場ですぐにとらえられ、アミールの前に連れ出されました。それでとうとう自分たちの罪(つみ)を認(みと)め、老人がぬすまれた金品は、すべてめでたく手元に返されたのです。それから3人のごうとうは、ぬすみの罪(つみ)でろうに入れられたのでした。
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