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アラビアもよう
アラブのどうわ


 ■アラブのどうわ 第43回 「川と正直者 その1」

 昔アラビアに、サーリムという名の貧(まず)しい男がいました。
サーリムは、わずかな食べ物を得るために毎朝仕事を求めて出かけ、一生けんめいに働いて、夜になるとつかれて家へもどります。そんな暮(く)らしがもう長い間続いていました。

 やがて時が移(うつ)りすぎ、村の事情(じじょう)は変わってしまい、だんだんと仕事が見つからなくなりました。サーリムは仕事を求めて市場へ出かけますが、以前のようには見つからず、落ちこんで家へもどります。そうしてサーリムのお金はだんだんと少なくなり、やがて食べ物もろくに買えなくなってしまいました。

 サーリムは、村に仕事が減(へ)ってしまったせいで以前よりさらに貧(まず)しく、このごろは体も弱ってきたことを思いあぐね、川向こうの国へ商売の旅に出かける決心をしました。もしかしたら川向こうの国には仕事がたくさんあり、多くのめぐみがあるかもしれないと思ったからです。

 ですが、しばしサーリムは考えこみました。
「……しかし旅にはお金がいる。文無しのわたしが、どこからそんなお金を算段(さんだん)するのだ。」

 考えたあげく、かれは心の中でこう言いました。「サーリフのところへ行こう。かれはゆうふくでしかもとても立派(りっぱ)な人だ。きっとよくしてくれるだろう。」

川の正直者 その1  サーリムはサーリフの家へ行き、門戸をたたきました。
 サーリフが中から「だれですか?」とたずねると、サーリムは「ある貧(まず)しい者です。あなたにお願いがあって来ました。」と答えました。

 するとサーリフは門戸を開けて客人を快(こころよ)くむかえ入れました。


 家の中へ入り、向かい合ってこしかけると、サーリフはたずねました。
「あなたのお願いとは何ですか?」
 そこでサーリムははじらいながらこう言いました。
「わたしはもうこの国では仕事が見つからず、暮(く)らしに困(こま)っています。だからあなたから1000ディナールお借りできるなら、それを元手に川向こうの国で商売をしたいのです。」

 サーリフはしばらくの間思案して、こう言いました。
「確(たし)かにお金はあります。でもそのお金をわたしがあなたに貸(か)したということを証明(しょうめい)してくれる証人(しょうにん)がほしいのです。」
 そこでサーリムは言いました。
「わたしはだれも知る者のないただの貧(まず)しい男です。ですから神様こそが、わたしとあなたの間の一番良い証人です。神様では証人としてお気にめしませんか?」

 それを聞くとサーリフは、「その通りですね、サーリム。証人として神様はじゅうぶんなお方です。」と言い、さらにこう続けました。
「それなら、保証人(ほしょうにん)を連れてきてください。あなたが万一お金を返しにこなかった時に、その借金をかた代わりして返してくれる人を。」

 するとサーリムはしばらくの間だまっていましたが、やがて静かにこう言いました。
「かんだいな人よ、わたしはしがないびんぼう人なのです。だれもそんなわたしの保証人(ほしょうにん)になってくれる人はいません。ですから神様こそがわたしの保証人です。」

 それを聞くとサーリフは、先ほど以上にけんきょにこう言いました。
「サーリムよ、本当にあなたの言う通りです。保証人として神様はじゅうぶんなお方です。」
 そう言うとサーリフは急いで部屋の中へ入り、お金の入ったふくろを持ってもどってきて、えがおで言いました。
「さあ、サーリムよ。ここに1000ディナール入っているから持って行きなさい。これを返すのに、神様があなたに力をさずけて下さいますように。」

 そこでサーリムはふくろを受け取り、こう言いました。
「神様がお許(ゆる)しになれば、来月のこの日、旅から帰ってあなたにこのお金を必ずお返しします。」
 サーリムは心から喜んでサーリフの家を後にし、そのお金を持って川岸へと向かいました。そして船に乗って川向こうの国へと旅立ちました。

川の正直者 その1

 川向こうの国へ着くと、さっそくサーリムは町の市場へと足を運びました。そして毎日一生けんめいに商売にはげみ、やがてまとまったお金を手にすることができました。

 そうしているうちに、お金を返す約束の日がやってきました。
 そこでサーリムは商売でかせいだお金を持って、川岸へ出かけました。サーリフが貸(か)してくれた同じふくろに1000ディナールをつめこんで。

 サーリムが国へ帰る船に乗ろうと川岸に向かっていた時、実は一方のサーリフも貸したお金を受け取ろうと、サーリムを出むかえに川岸へ向かっていたのでした。

 川岸に着いたサーリムは村へ帰る船を一生けんめい探(さが)しましたが、どうしても見当たりません。サーリムは困(こま)り果て、どうしたらいいのか必死に考えました。
 一体どうするべきなのか……。

つづく


【ハキムのひとこと】

ハキム

 サーリフは、神様を証人(しょうにん)として、また保証人(ほしょうにん)として、お金を貸(か)すことを受け入れ、困(こま)っていたサーリムを助けました。神様は、人に見えることもかくれたこともすべてご覧(らん)になれるのだから、証人としてだれよりもふさわしく、また、神様は人間にできないつぐないをしてくださるお方なのだから、保証人としてもふさわしいのだ、と思ったからです。

 サーリムはそんなサーリフに、何としても約束の日にお金を返そうと思い、一生けんめいその方法を考えます。自分を信用してお金を貸してくれた人のしんらいを裏切(うらぎ)らないために、そしてまた、自分の証人と保証人になってくださった神様を裏切らないためにも。さて、サーリムは何か良い方法を思いつくことができるでしょうか?


 

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