昔アラビアに、アブー・フライラという貧(まず)しい人がいました。
ある日アブー・フライラはひどくおなかをすかせていましたが、家に食べるものはなく、食べ物を買うお金もありませんでした。そこでどうにか食べ物を口にできないかと思い、家を出ました。
町へ出ると、友人の一人に出会いました。しかしアブー・フライラは、自分がとてもひもじくて、食べ物を買うお金がないことを、はずかしくてどうしてもその友人に話せず、ほかのことをたずねました。もしかするとそれをきっかけにして、友人が家へ招(まね)いてくれるかもしれない、とあわい期待をしたのです。
しかし、その友人はアブー・フライラの気持ちに気づかず、たずねられたことに答えると、急いでどこかへ行ってしまいました。
その後も、もう一人別の友人に出会いましたが、アブー・フライラはやはり同じ事をたずねただけで、はずかしくて本当のことを言えずじまいで、同じことのくり返しでした。
そこに預言者(よげんしゃ)ムハンマドが通りかかりました。ムハンマドはアブー・フライラの顔を見るとその心のうちをすぐに察(さっ)し、かれを自分のうちへ連れて行きました。
ムハンマドの家には大きな容器(ようき)いっぱいの牛乳(ぎゅうにゅう)がありました。しかし、ムハンマドはアブー・フライラに、貧(まず)しくて住む家もなく、礼拝所(れいはいじょ)に寝泊(ねとま)りしている人々をみな連れてくるように言いました。それを聞いて、アブー・フライラは内心悲しみました。牛乳はたくさんありましたが、かれらが来て飲んでしまえば、自分の分はほんのわずかしか残らないだろうと思ったからです。しかし、かれはその気持ちをムハンマドに伝えるのもはずかしく、だまって貧しい人たちを呼(よ)びに行き、やがてかれらを連れて戻ってきたのでした。
ムハンマドは牛乳を、まずその貧しい人たちに飲ませました。その後でアブー・フライラが容器をのぞくと、牛乳はやはりほんの少ししか残っていません。かれが内心がっかりしていると、ムハンマドはやさしくほほえんで、かれにその残りを飲むよう言いました。
けれど不思議(ふしぎ)なことに、アブー・フライラがその残りを飲むと、わずかしかなかったはずの牛乳で、かれはなぜかおなかがいっぱいになったのでした。
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