昔アラビアに、アブー・バクルという、人々にとても信らいされた立派(りっぱ)な人がいました。かれは、とてもやさしく正直な人としても知られていました。
アブー・バクルは、自分が住む地域(ちいき)の村人たちが家ちくの世話で大変そうなので、いつもかれらを助けて自分もその仕事に加わり、牛ややぎの乳搾(ちちしぼ)りを手伝っていました。
またかれは、当時のアラビアで良い家がらの人として知られていましたが、自分は質素(しっそ)でつつましい生活をし、多くの人たちを助けました。
それまでアラビアの国を治めていた預言者(よげんしゃ)ムハンマドが病気で亡(な)くなると、高い知識(ちしき)を持ち、人々に信らいの厚(あつ)いアブー・バクルは、アラビアの新しい長(ちょう)に選ばれました。
アブー・バクルが長に選ばれたことを知った村人は、かれが立派(りっぱ)な地位についたので、もう自分たちを手伝ってはくれないだろうと思い、こう言ってなげきました。
「これでもう、わたしたちの家ちくは乳(ちち)を搾(しぼ)ってもらえなくなる。」
しかしそれを聞いたアブー・バクルは村人にこう言いました。
「いいえ、わたしはあなた方のために乳搾(ちちしぼ)りをします。わたしは自分の新しい長(ちょう)という立場が、かつての自分の行いを変えてしまわないよう願っているのです。」
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