昔アラビアに、一人の貧(まず)しい男がいました。
男には、とても気前が良くてやさしい友がおり、困(こま)っている時には、いつでもかれを助けてくれました。
ある日、その貧(まず)しい男がいつものように友を訪ねると、門番が中に入れてくれません。そこで気を悪くした男は、短い詩を紙切れに書いて門番に差し出し、中にいる友にわたすよう言いました。その詩には、こう書いてありました。
気前よく差し出す者も かくれれば
ケチな輩(やから) と変わることなし
門番はその紙切れを持って家の中に入っていきましたが、しばらくすると、友からたくされた紙切れと500ディナール入りのふくろをかかえて出てきて、男に手わたしました。紙切れの裏(うら)には友の詩が返事として、次のように書かれていました。
気前よく差し出す者も 貧(ひん)すれば
友に恥(は)じ入り この身隠(かく)さん

男はその詩を読むまで、いつも助けてくれるそのやさしい友が、自分と同じようにお金に困(こま)っていることを知らなかったのです。そして自分も生活に困(こま)っているというのに、それでもなんとかしてくれようとする友のやさしさに胸(むね)を打たれました。
そこで男は、当時国を治めていた人々の長(ちょう)、マームーンのもとへ急ぎ、この友について話し、友の書いた詩と500ディナールの入ったふくろを見せました。するとマームーンはそのふくろに見覚えがあったので驚(おどろ)き、周りの者に、男の友を呼(よ)んでくるよう言いつけました。
やがて連れて来られた人物を見て、マームーンは目をみはり、かれと次のような会話をしました。
「あなたは 昨日わたしのところへ来た者ではありませんか?」
「はい、そうです。」
「その時、お金に困(こま)っているとわたしにうったえたのではありませんか?」
「はい、そうです。」
「だから、わたしはあなたにこのふくろをあたえたのではありませんか?」
「はい、そうです。」
「それなのに、友人が詩で援助(えんじょ)を求めたからといって、このふくろを差し出した のですか?!」
すると、その友はマームーンにこう答えました。
「そうです。わたしが昨日、生活に困(こま)っているとうったえたのは本当のことで、うそ
はありません。しかし、あなた様がわたしを助けてくださったように友を助けなければ、 わたしは神様に対して恥(は)ずかしいと思ったのです。」
それを聞いてマームーンはその男をほこりに思い、「君はアラブでいちばん、気前の良い男だ。」と言ってその心の広さをたたえ、褒美(ほうび)として男にたくさんのお金をあたえたのでした。
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