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王の命令でとつぜんとらえられたアブー・スィールには、死刑(しけい)が言いわたされました。そしてその処刑(しょけい)方法はかれを海にしずめるというものでした。それからアブー・スィールの身がらは海兵隊の将校(しょうこう)にたくされ、次のような命令が発せられました。
つまり、アブー・スィールをなわでしばって重りの石灰(せっかい)といっしょにふくろづめにし、それを船にのせて海に出るのです。そして、港を見下ろす宮殿(きゅうでん)のてっぺんから王が合図を送ったら、将校はふくろを中身ごと海へ投げこめ、という命令です。
海兵隊の将校はアブー・スィールの常連客の1人で、アブー・スィールの善良(ぜんりょう)さや誠実(せいじつ)さや善い行いをよく知っていました。それで、アブー・スィールのたいほと、その罪状や刑ばつを知った時、きっとかわいそうなアブー・スィールが何かのいんぼうのぎせいになったにちがいない、と確信したのです。
そこで将校はすぐさまボートでかれを近くの島へと連れて行き、ひそかににがしてやりました。かれがそこで身をかくすことができるように。その時、将校はアブー・スィールに魚とりのあみをわたして、このように別れを告げたのでした。
「これでできるだけたくさん魚をとりなさい。実は王の食事のための魚を用意するのもわたしの仕事の一つなのです。だからあなたが魚をとってくれれば、わたしも助かるのですよ。」
それから、将校は王の命令どおりに海の真ん中へ出て、石灰とたくさんの石をつめこんだふくろを足元において王の合図を待ちました。そしてしばらくすると、王は高くあげた手を勢いよくふり下ろし、かれに合図を送りました。
それで将校が足元のふくろを海に投げこむと、それは大きな水しぶきをあげてしずんでいきました。しかし、王が合図のために手をふり下ろしたしゅん間、何かキラッと光る小さなものが海に落ちたのにかれは気づいたのです。
アブー・スィールは魚とりをするために島の周りの浅せを移動しました。そしてアッラーの助けにより、そこでたくさんの魚をとることができました。その後、しばらくするとかれは空腹を覚え、心の中でこのようにつぶやきました。
「これだけ魚があれば、王の食事用としては多すぎるぐらいだろう。この中から少しだけとって火であぶり、将校さまがもどってこられた時にめし上がってもらうことにしよう。」

そして小刀を取り出し、魚の腹を割(わ)りました。そして魚をさばいていると、とつぜんそのエラからとても強い光を放つ大きな黄金の指輪が出てきたのです! そこで、アブー・スィールはその指輪を自分の人差し指にはめ、魚をあぶるための火をおこす準備をしました。アッラーが自分にあわれみをかけてくださったことに感謝(かんしゃ)しながら。
ちょうどその時、2人の男が岸辺に小船をつけてかれのところにやってきました。そして、自分たちは王の食事用の魚を受け取りに来たのだ、とかれに告げました。そしてそのうちの1人が、「将校(しょうこう)さまはどちらにいらっしゃるのか?」とたずねたので、アブー・スィールは先の指輪がキラキラとかがやく指で、かれらの小船の向こうに見える将校のボートを指差したのです。すると、指輪から放たれたするどい光が2人を地面になぎたおし、かれらはそのまま死んでしまったのでした。
その後、将校が島へもどってみると、途方にくれているアブー・スィールのそばで、2人の家臣たちがたおれているのを見つけました。しかし、アブー・スィールの話を聞くと、将校はすぐにそのわけをさとりました。
王の合図の時に光ったものは、王の指からぬけ落ちた指輪だったのです。そしてその指輪は運命に導かれて魚の体へ入りこみ、その魚がアブー・スィールのあみへ指輪ごと運ばれたのでした。
将校は、実はその指輪には不思議な力があるのだ、とアブー・スィールに告げました。どんな生き物であっても、その指輪をはめて指差すと、それはたちまち死んでしまうのだ、と。アブー・スィールが先ほど知らずにそうしてしまったように。
そして将校はさらにこのように言いました。
「国王陛下(へいか)はこの指輪の力で敵を支配し、わが国を守っておられるのです!」
それを聞くとアブー・スィールはこう言ったのでした。
「それならば、この指輪を今すぐに国王陛下に返さなければなりません。」
こうしてアブー・スィールがふたたび王のご前に立つと、王はおどろき、そしていかりました。そこでアブー・スィールと将校とをとらえよと命じようとした時、王はアブー・スィールがあの指輪を指にはめているのに気づいたのです。それでみるみるうちに王は顔色を失い、きょうふで何も言えなくなってしまいました。
そこでアブー・スィールは、いかにして自分がこの指輪を手に入れたのかを語り、それからなんのためらいもなくそれを王に返して、このように言いました。
「ただ、わたしは知りたいのです。なぜ陛下がわたしをにくまれるのかを。いったいわたしが陛下にどんな悪事を働いたというのでしょうか?」
そこで王はアブー・キールが言ったことをかれに話しました。それでやっとアブー・キールのうそといんぼうが明らかになったのです。真実がわかると、王はすぐにアブー・キールをとらえて連れてくるよう、家臣たちに命じました。
やがて王と家臣たちの前で、アブー・キールのいんぼうのしょう細が明らかにされました。その結果、アブー・スィールに言いわたされたのと同じ刑(けい)がかれに言いわたされました。それは、もし海兵隊の将校の助けがなければ、今ごろアブー・スィールはこの世にいなかったと思われる、「海にしずめる刑」でした。
それを聞くと、心やさしいアブー・スィールは友人のためにとり成しをし、このように願い出ました。
「国王陛下(へいか)、どうかごじひを。わたしはこの者の計略にじゅうぶん注意をはらわなかったのでございます。ですからわたしはかれのためにかん大なおゆるしを願います。かれの罪に相応するばつをあたえなければならないのであれば、どうか死刑以外の刑ばつをおあたえください。」
しかし、王はアブー・スィールのとり成しを退けて、このように告げたのです。
「あなた自身はかれをゆるしてやることができるかもしれない。しかしかれのいむべき行為(こうい)はわたしへの反逆でもあり、そればかりか、この国の民(たみ)すべてへの反逆でもあるのだ。だから、かれをゆるすことはまかりならない。」
こうして、とうとうアブー・キールは善良な友人をおとしいれたむくいを受けたのでした。
一方、王はアブー・スィールの正直さと誠実(せいじつ)さにむくいてたくさんのほう美をあたえ、かれを自分の側近の1人にしました。
しかしアブー・スィールは、すでに少しはお金をためることができたので、このまま故郷(こきょう)から遠くはなれて暮(く)らしたくはありませんでした。それで、故郷のアレキサンドリアへ帰る決心をしました。王はアブー・スィールが考えを変えてこの国に残ってくれるよう、財産(ざいさん)やゆう福な暮らしや高い地位をかれに提供(ていきょう)しようとしたのですが、かれの考えは変わらなかったのです。

そこで王は、アブー・スィールとの別れを心からおしみながら、かれの帰郷のために船を用意させました。そしてその船にかれへのおくり物としてたくさんの財宝(ざいほう)を積みこませ、また熟練(じゅくれん)した船員たちを送りこんでかれを無事祖国(そこく)へと送り届(とど)けたのでした。
こうしてアブー・スィールは無事に、そして多くの富を得て、故郷のアレキサンドリアへもどりました。そして祖国で心安らかに幸せな日々を送りました。
そんなある日、アレキサンドリア近くの海岸に、石と石灰(せっかい)がつまったふくろが打ち上げられました。そして、やがて人々はそのふくろにまつわる話を知るようになり、その場所は、「アブー・キール湾(わん)」と呼(よ)ばれるようになりました。そして今なお、その名で呼ばれ続けているのです。
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